コラム

オスプレイ配備問題は「腹芸」でいいのか?

2012年07月06日(金)10時57分

 沖縄への垂直上昇機「オスプレイ」の配備に関しては、賛成反対が入り乱れているようです。その背後には「肝心の点を誰も口に出さない」という、日本の「腹芸」がある、私にはそう見えます。

 まずオスプレイという機の特徴です。反対論に近いメディアでは「ヘリコプターに似ているが、ヘリコプターとは違ってエンジン停止時に自然な羽根の回転による揚力発生(オートローテーション)がないので墜落しやすい」ということが言われています。確かに配備基地周辺での事故への懸念から見れば、そうした言い方になるのでしょうが、実はオスプレイの特徴としては、ヘリとは違って時速500キロ超という高速での水平飛行が可能という側面があるわけです。

 つまり、プロペラ機に近い高速で目的地に急行し、しかも滑走路のない場所へ着陸が可能なのです。ということは、このオスプレイというのは「離島防衛」に最適な輸送機であると言えます。いや、それどころか配備をすることで、離島を巡る紛争について、有効な抑止力が得られると言っても過言ではないでしょう。

 ところが、この「オスプレイ配備による離党防衛」について、野田政権は何も言わないのです。アメリカ側もそれに同調しているフシがあります。まるで「腹芸」です。

 どうして口に出して言わないのか? 2つあるように思います。

 まず、言ってしまえば中国が黙っていられなくなります。中国が配備に反対したりして、この地域の緊張が高まれば、安いコストで抑止力強化という当初の目的が崩れるからです。

 また、尖閣諸島を意識する文脈で、仮に本土の保守派が配備に理解をしてしまうと、本土と沖縄をめぐる対立がクローズアップされてしまいます。これは中長期的には中国の野心に利用されかねない危険性を孕むことになります。

 この2つの問題が余りに深刻であるために、問題の本質について誰も何も言わない「腹芸」の世界が続いているのだと思います。

 特に沖縄の人々にとっては、本土とアメリカに対して自身の誇りを回復するための反基地感情を、対中国の抑止力問題とは分離して考えることで、自分たちが国際的な紛争に巻き込まれないような「知恵」を働かせているのです。

 私は、この問題には全体として重たい必然性を感じる者ですが、1つ大きなリスクがあるとしたら、アメリカには、特に自分たちがコストを負担していると考える昨今の保守派には、こうした「腹芸」に付き合う気持ちはないと考えられる点です。

 そうした意味合いも含めて、オバマ政権が続いているうちに、この問題に関しては何らかの合意に達しておくべきと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

ニュース速報

ビジネス

ECB理事会が過度のユーロ高懸念、早計な指針変更回

ワールド

米中は経済戦争、北朝鮮巡り軍事的解決ない─バノン氏

ワールド

米韓合同軍事演習は予定通り実施、脅威に対応=米軍制

ワールド

EU離脱交渉、10月までに「十分な進展」あると確信

MAGAZINE

特集:2050 日本の未来予想図

2017-8・15号(8/ 8発売)

国民の40%が65歳以上の高齢者になる2050年のニッポン。迫り来る「人口大減少」はこの国の姿をどう変える?

※次号8/29号は8/22(火)発売となります。

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    イルカの赤ちゃん、興奮した人間たちの自撮りでショック死

  • 2

    北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因

  • 3

    「ゴースト」「ドイツの椅子」......ISISが好んだ7種の拷問

  • 4

    ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

  • 5

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 6

    米軍に解放されたISの人質が味わった地獄

  • 7

    「ディーゼル神話」崩壊、ドイツがEVへ急転換、一方…

  • 8

    垂れ耳猫のスコフォがこの世から消える!? 動物愛…

  • 9

    シャチがホホジロザメを餌にし始めた

  • 10

    北朝鮮の核危機、「仲介役」としてスウェーデンが浮上

  • 1

    米朝舌戦の結末に対して、中国がカードを握ってしまった

  • 2

    自分に「三人称」で語りかけるだけ! 効果的な感情コントロール法

  • 3

    軍入隊希望が殺到? 金正恩「核の脅し」の過剰演出がバレてきた

  • 4

    北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因

  • 5

    英グラビアモデルを誘拐した闇の犯罪集団「ブラック…

  • 6

    北朝鮮、グアム攻撃計画8月中旬までに策定 島根・広…

  • 7

    トランプ「軍事解決の準備完全」、北朝鮮「核戦争の…

  • 8

    北朝鮮巡る軍事衝突のリスク非常に高い、ロシアは回…

  • 9

    こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない

  • 10

    イルカの赤ちゃん、興奮した人間たちの自撮りでショ…

  • 1

    マライア・キャリー、激太り120キロでも気にしない!?

  • 2

    トランプに「英語を話さない」と言われた昭恵夫人、米でヒーローに

  • 3

    日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ

  • 4

    ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

  • 5

    北朝鮮、グアム攻撃計画8月中旬までに策定 島根・広…

  • 6

    エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあ…

  • 7

    自分に「三人称」で語りかけるだけ! 効果的な感情コ…

  • 8

    米朝舌戦の結末に対して、中国がカードを握ってしま…

  • 9

    軍入隊希望が殺到? 金正恩「核の脅し」の過剰演出…

  • 10

    対北朝鮮「戦争」までのタイムテーブル 時間ととも…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

全く新しい政治塾開講。あなたも、政治しちゃおう。
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!