コラム

少子化問題その根源を問う(第2回)

2012年05月28日(月)11時35分

 それにしても、日本ではどうして「核家族」に尊敬が払われないのでしょう?

 例えば、先週の2つの事件は実に象徴的です。

 まずお笑い芸人の河本準一さんの実母の生活保護支給に関しての議論に関しては、色々な見方があると思いますが、その際に違和感を感じたのは、この河本準一さんという人が既婚で子供さんもいるという事実が全く報道されなかったことです。

 そんな中で、経済的な余裕のある子どもは困窮した親を扶養する義務があるという民法上の規定が、世論の「空気」によって拘束力を増したように思います。勿論、成人した子の親への扶養義務という概念は、アジアだけでなく欧米の各国の法制や慣習の中にも程度の差こそあれ、厳然と存在します。

 ですが、結婚して子どももいる世代に取っては、まず「その核家族」を経済的に安定させること、そして未成年の子どもに十分な成長の環境を与えることが最優先だという、物事の順序というのはあると思うのです。濃淡はありますが、欧米にはあるし、中国圏でも日本よりはあると思います。

 河本さんのケースは、大規模な芸能事務所との安定的な高額の契約があったことなどから、そもそもの負担能力ということで、また母親の困窮という事実をお笑いの「ネタ」にしていたというようなことから、指摘されるような問題はあったと思います。ですが、今回の経緯を通じて「あらゆる成人した子で、生計費に余裕のある人間」は「あらゆる直系困窮親族への生計費補助の義務」がオートマチックに発生するような「空気」ないし「運用」になるとしたら、それは行き過ぎだと思うのです。

 まず成人した人間は、その世代の家族を形成し次世代を育むことが最優先であり、更に余裕があれば要求に応じて親への援助の義務が具体化するという「順序」があって良いと思います。またその際には最低限その配偶者の同意が必要というような運用でなくては、世代から世代へと「未来を担う人間」育てていくシステムが弱くなってしまうのではないでしょうか?

 成人した子に対する依存や支配という関係性が、老親の側に強めに残ることで、成人した子が次世代を育むという「現役の核家族」つまり経済活動としても、子育てという意味でも現役である世代が疲弊するというのは本末転倒だと思います。河本さんの一件は是正がされるべきと思いますが、核家族を圧迫する方向でメッセージが暴走していくことは警戒しなくてはなりません。

 もう1つは、みのもんたさんの奥さんが亡くなったというニュースです。この問題も、このご夫婦なりに、最後に海外旅行を楽しみ、夫が淡々と仕事をこなす中で静かに妻が旅立つというのは良く考えられた上での立派な「別れのスタイル」だったのだ、それはよく分かります。また、奥様の最後にはみのさんは立ち会われたようであり、間に合わなかったのではないようです。いずれにしても、そうした厳粛な事実を揶揄することは私の本意ではありません。

 ですが、危篤の妻を差し置いて仕事を続けるのが美徳という考え方を一般化するというのは、やはり問題だと思うのです。みのさん本人はともかく、周囲がどうして「ご危篤であればお休みになってください」という形へ持っていけなかったのか、やはり私は問題を感じます。社会へ向けてのメッセージとして、人としてあるべき姿としてどうなのでしょう?

 過去にも、危篤の老親を差し置いて仕事を続けたプロ野球の監督や選手が美談となったり、難病の子どもさんの手術を理由に帰国した外国人野球選手が罵倒されたりというニュースがありました。そうした際には「代わりがいない」場合は仕事を家庭より優先するのが当然という価値観が当たり前とされてきたように思うのです。これは現在でも全く変わっていません。

 とにかく家庭の問題を優先することなく、仕事に「穴を空けない」のが美徳という思想は克服しなくてはなりません。それも家族が危篤であっても仕事を休まないというのでは、もっと深刻度の低いケース、それこそ子どもが熱を出したとか、子どものスポーツチームが決勝戦に進んだというようなケースでは、全く誰も休めないことになります。

 かつての日本は、家父長制とでも言うべきヒエラルキーの大家族制度があり、個人の自己決定権や幸福度を圧迫してきた歴史があります。では、そうした大家族制が崩れる中で、核家族が機能したかというとそうではなく、一気に核家族まで解体して個人がバラバラになっていく兆候が色濃くあります。そうした流れを一旦ひっくり返して、核家族の強化を行うというのは少子化対策の核に据えるべきテーマだと思うのです。

 日本の場合は、例えば非嫡出子差別の撤廃、事実婚の普及からの出生率回復なども必要ですが、そうした込み入った話の前に、当たり前の「核家族の確立」つまり「カップルと未成年の子ども」が「子育て現役」である期間を社会の中核として組み立て直すことが、順序としては何としても必要です。

 いずれにしても、河本さんの問題がエスカレートして、困窮した老親のいる人間が結婚しにくくなったり、企業が内定者の親の経済状態まで気にするようなことがあっては明らかに行き過ぎです。

 また、奥様が危篤であった際のみのさんの対応は、亡くなった奥様の意思でもあるとも思われ否定はできないと思いますし、改めてお悔やみを申し上げるしかありません。ですが、これはあくまでみの夫妻の個別のケースであり、一般化すべきではないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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