コラム

M5・8が「大地震」というアメリカ東海岸の動揺

2011年08月24日(水)11時26分

 クルマを運転していた私には揺れは全く感じられませんでした。私は家族を医者の検診に連れて行くところだったのですが、医院に着くと事務や看護師の人々が、出口で携帯電話をかけながら「地震だ、地震だ」と驚いた様子だったことで事態を把握したのでした。自分では揺れは感じなかったのですが、ニュージャージー中部では震度2から3というところだったようです。

 医院では騒ぎが続いており、医師が出てきて「緊急事態だからローカルFM局の音声を全館に流すように」と指示していましたし、事務の人たちは「南のボーデンタウンでも揺れたらしい」とか「オハイオ州でも揺れた」などと情報交換していました。やがてFM(「NJ101・5」という局)で「マグニチュード5・8という発表です。これは日本の東日本大震災などと比較すると、全く問題にならない小規模なものですから心配しないように」というアナウンスがあると、人々は静かになって行きました。

 医院の次に寄った店でも、地震の話題で持ちきりで、店の人は「私はカリフォルニアで2度大きいのを経験しているけど、東海岸では初めて、聞いたこともない」などと言っていました。そんなわけで、「珍しいニュース」という印象で家へ戻り、TVを見てみると大変なことになっているのに驚かされました。

 CNNでは地震後数時間はこのニュースをブチ抜きで報道していたのですが、ホワイトハウスや国防総省では緊急避難、マンハッタンの高層ビルでも多くの人が避難、都市間の特急電車アムトラックは一時停止後徐行運転、というのです。地震発生は東部時間午後2時少し前でしたが、NYの証券取引所は基本的に買いの進んだ日だったにも関わらず、直後は一旦下げたそうですし、とにかく大騒ぎでした。

 報道によれば震源のバージニアを含めて「本棚の本が落ちるような揺れはなかった」そうですから、大きくて震度4程度だと思われるのですが、人々の反応は大変なものでした。大きな影響があったのは通信の関係で、携帯の回線は通話が殺到して一時的にかかりにくくなったようですし、ツイッターでは一気にトラフィックが増えて、実質的にダウン状態が数時間続いたようです。ヤフーのニュースでは「東海岸に強い地震(ストロング・アースクエイク)」という見出しが大きく掲げられていました。

 ワシントンの官庁街では、例えば連邦最高裁では被害はなく、業務が遅滞することもなかったそうですが、その他の連邦政府機関では建物の安全性が確認できないからと、全職員を帰宅させた部署もあったようです。ワシントンで被害の大きかった(らしい)のは、例えばワシントン記念塔で、これは全高170メートルの大理石などでできた塔なのですが、もしかすると傾いているかもしれないなど、安全が確認できないことから一帯は立ち入り禁止になっているそうです。

 震度やマグニチュードから考えると、何とも大げさな騒動になっているのですが、とにかく東海岸でこの規模の地震は100年以上なかったそうで、これが生まれて初めての地震の経験になる人も多かった以上、仕方がないでしょう。ただ、仮にこの規模の地震が何度か起きるようですと、果たして建築等の耐震性はこれでいいのかという議論も出るかもしれません。

 それはともかく、この規模の地震でパニックになるアメリカ東部の人々を見ていると、日本人の強さということを改めて痛感します。それは過酷な自然環境に鍛えられた受け身のものかもしれませんが、明らかに決意と知恵によって現実のものとした強さだということは否定できない、そう思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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