コラム

アメリカが福島第一の「4号機」に注目する背景には「使用済み核燃料問題」があるのでは?

2011年03月23日(水)12時09分

 福島第一原発の事故は、依然予断を許さない状況ですが、アメリカの報道はここへ来て沈静化しています。リビアでの戦争が始まり、北アフリカと中東に関心が向かっているということもありますが、放水の成功や通電といったニュースに敏感に反応しているとも言えます。こうした機運に乗じて、「アメリカの原発は安心」という観点からの報道も出てきました。

 22日の朝のNBC『トゥディ』ではトム・カステーロ記者が、全米で104カ所ある原発の中からルイジアナ州の「ウォーターフォード3原発」に飛んで、現在稼働中のこの原発についてレポートしていました。この原発には特別な事情があります。というのは、ニューオーリンズ市街にほど近いこの原発は、2005年のハリケーン「カトリーナ」で被災しているのです。

 被災の状況はある意味では福島に似ています。ハリケーン接近に伴い、この原発は緊急停止をしました。ですが、904ヘクトパスカル、風速71メートルという猛烈なハリケーンと、その後の一帯を襲った堤防決壊の影響で、地域の電力供給グリッドは完全にダウンしてしまったのです。ただ、ウォーターフォード3の場合は、非常用のディーゼル電源は稼動しており、炉心の冷却には問題はありませんでした。

 NRC(米国原子力安全委)は事態を重く見て厳重な検査を行い、安全を確認してから最稼働を許可しており、現在でもルイジアナ州の電力需要の10%を担っているそうです。カステーロ記者は、その集中管理室を取材していましたが、驚いたのは、今回は使用済み核燃料の貯蔵プールへの取材も許されたということです。

 コンクリートの分厚い壁に挟まれた狭い階段を延々と上がってゆくと、そこには青色の水をたたえたプールがあり、周囲には「危険、放射性物質管理区域」という表示と柵がありましたが、直接水面が覗けるようになっていました。カステーロ記者は、マスクも全く何もつけずにムキ出しのプールの水面を見て、そこで技術者からの説明を受けていました。

「ここには使用済核燃料34万5000本が循環する水で冷やされており、水温は華氏90度(摂氏32度)に保たれています。停電した場合は3日後に沸騰が始まり、18日後には燃料棒が露出してしまいます」そう技術者は淡々と説明をしていました。ちなみに、カステーロ記者は放射線計を持ち歩いていましたが、炉に近い管理室でも、このプールの脇でもメーターは終始「ゼロ」を表示していたそうです。

 この報道が興味深いのは、アメリカでは福島第一の事故に関して「緊急停止した原子炉の炉心冷却失敗」という問題と、「使用済み燃料の温度上昇事故」という問題を分けて考えていることを示唆しているからです。先週の水曜日の16日に議会公聴会で「4号機のプールの水はカラではないか?」という発言が出て大騒ぎになったこと、その後、3号機と4号機への注水が大きな注目を集めたことなどを通じて、アメリカでは、第2の問題、つまり「使用済み燃料保管の安全性」という問題への危機感が増大しているのです。今回のNBCのカステーロのレポートはそれを反映していると言って良いでしょう。

 ちなみに、アメリカの原子力政策は日本とは異なります。日本の場合は「核燃料サイクル」の完成が国策でした。使用済み核燃料は数年間プールで水による冷却をして後、特殊な金属容器に入れて「中間貯蔵」をして更に冷却、その後に再処理工場でウランとプルトニウムの混合である「MOX燃料」に再生するという考え方です。そのための中間貯蔵施設はまだ未完成ですし、再処理工場も完全に稼働はしていませんが、考え方はそうです。

 ちなみに、アメリカはこの「再処理」を「しない」ことが国策の基本です。理由は、再処理によってプルトニウムが生成されると核爆弾の原料となってしまうためで、盗難等による核拡散を恐れると同時に、諸外国の再処理活動にも警戒感を持っています。では、アメリカは「使用済み核燃料」をどう処理しようとしているのでしょうか? 基本は貯蔵です。NRCによれば5年間水で崩壊熱を冷却してから、金属キャスクに入れて永久保管というのが方針です。保管については、大規模な国営施設を作ろうとする動きもある一方で、現実的には各原子炉の敷地内という考えが基本です。

 今回の事故、とりわけ4号機の使用済み燃料プールの事故は、アメリカにとってこの保管政策の安全性問題に直接結びつくのです。定期点検中で炉はカラであった4号機は、実質的に使用済燃料の保管施設であったわけで、その事故という位置づけになるからです。考えてみれば、この「使用済み燃料の保管体制」という問題は、核燃料サイクルに関する考え方の違う日米でも共通の問題であるように、原発推進派にも、反対派にも同じように避けて通れない問題だと思うのです。

 これまでは、原発や再処理工場などの「アクティブ」な施設についてだけでなく、中間貯蔵施設や永久貯蔵施設(アメリカの場合)などの「静かな貯蔵施設」に関しても反対派は候補地が決まると、そこで「絶対反対」を主張してきました。その結果として、アメリカでは各原子炉に付設した形で冷却用プールと、永久貯蔵体制を作らざるを得なくなったわけですし、日本の例えば福島の場合は、原子炉建屋の中に冷却プールを作ったわけです。今回はその脆弱性が明らかになりました。

 反対派が貯蔵施設に反対したのは、温度管理や密閉性管理に失敗すると放射性物質漏れの危険があるのと同時に、そうした「使用済み燃料が半永久的な保管を必要とする性質」自体を、原発の本質的な「罪悪」として批判することが可能だったからでした。この点は、日本もアメリカも事情は全く一緒です。一方で、原発を推進する側は、本格的な貯蔵施設を建設できずに、次善の策として原子炉建屋に付設する形で貯蔵してきたわけです。

 今回の事故を契機に、使用済み核燃料の危険性が改めてクローズアップされました。反対派は、こうした事態に至った政策を批判するでしょう。原子力推進側はその批判を甘んじて受けるしかありません。ですが、これから先については、原子力発電を100%続けるにしても拡大するにしても、あるいは50%に減らすとか完全に廃止するという場合も、使用済み核燃料の安全な冷却と保管という問題は避けて通れないのです。

 であるならば、この点に絞って、具体的には「バックアップ電源、堅牢性、セキュリティなど安全な冷却プール」のガイドラインと、「本格的で安全な中間(もしかしたら永久)貯蔵施設」のガイドラインと立地については、推進派であるか反対派であるかに関わらず、真剣で現実的な議論が必要だと思います。この議論は恐らく、全世界規模のものになるのではと考えられます。仮に、今回の事故を教訓にできずに、この問題に社会的な合意ができないようですと、同様の事故の起こるリスクは下げられません。

 逆に、この貯蔵施設の立地選びやスペックなどで、反対派の本能的な危機感と推進側のノウハウが噛み合ってゆくようですと、その合意のできた国においては、その延長上で原子力の利用に関する建設的な議論も可能になってくるように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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