コラム

震災報道、原発事故報道への提案

2011年03月14日(月)13時57分

 今回の東日本大震災で被害に遭われた方、避難中の方々、またそのご家族、ご友人などに心よりお見舞いを申し上げる次第です。また危険を冒して救援活動ならびに、原発事故等の問題解決に現在努力されている方々へ、心からの尊敬の念を申し述べるものであります。

 それにしても、前回エントリからの数日間で、私たちにとっての全世界が一変するような事態になるとは思いませんでした。今回の震災に関しては、アメリカでは最大限の報道が続いています。一方で、震災発生から時間が経過するに従って、原子力の平和利用の是非であるとか、日本復興の資金調達方法と世界経済への影響など、様々な立場からの意見が出始めているのも事実です。

 ですが、日本人の私には、まだまだそうした大局的な議論にスイッチすることは心理的に不可能です。当面の事態をどう把握するか、情報を受けてどのように自分の精神を保ってゆくかで精一杯というところです。一方で、遠くから、また昼夜の逆転する時差の世界にいることから、日本について冷静に見ることのできている点もあるように思います。以下は、そんな立場からの特に報道体制・広報体制に関する提案です。ご参考にしていただければと思います。

(1)日本国内の日本語での会見や発表も、全て全世界に直結しているということを理解していただきたいと思います。例えば、福島第一の一号機に関して「炉心溶融」が「あった」という枝野官房長官の発言と、「ない」というCNNにおける藤崎大使の発言の食い違いは、アメリカや在日外国人の間ではずいぶん大きな混乱を生じました。また菅総理の数回の会見の内容は、そのまま英語で世界を飛び交っています。直後はともかく、今後は少しずつ発表や会見の正確性と整合性を上げていっていただければと思うのです。

(2)その原発事故の関連では、当初の混乱状態から、原子力安全・保安院で根井審議官が情報を交通整理して会見するようになって信頼度が上がったように思います。その動きを活かして、例えば「根井審議官と内閣、東電が常に合同会見をするようにする」とか「根井審議官と、例えば池田信夫氏と勝間和代氏あたりがネット公開対論というスタイルで会見と同様の発信をする」というようなことがあれば、世論の信頼度も、世界への情報公開という点でも有用だと思うのです。

(3)東北の最新の現状が分かりません。海外の我々としても心配であるし、国内の方々も、まして被災地の方々も様子が伝わらないもどかしい思いをされているのではと思います。緊急時にメディアが入ることへの批判的な視線がここ数年強いのですが、ここまで被災地報道が少ないのも不安です。地方局がエース級をまとめてチームを作り、民放連の共同取材のような形で発信していただけないかと思うのです。

(4)東京電力は、福島第一第二に関しても、今回の輪番停電に関しても広報体制に関してのSOSを出すべきです。つまり高速で柔軟で正確で誠実な広報体制を敷ける組織になっていないのであれば、外部の力を借りるべきです。広告代理店、あるいは危機管理コンサルタントのような中の超エース級の人材を据えて、最高レベルのPRのコミュニケーションを行ってはどうでしょう。口八丁手八丁で乗り切れというのではなく、全てを公開し、なおかつ流動的な状況の中で世論との情報の流れを常に生かし続ける情報の司令塔となる人材が必要です。

(5)JR東日本には東北での安全確認、復興準備についてものすごい負荷がかかっているように思います。民営化したというのは、危機における社会的貢献も全て自分の資金力でやれと突き放したわけではないように思うのです。東電同様にものすごい負荷のかかった民間会社に対して、営利企業だからと冷淡な目を向けるのは、報道体制として、もう少し抑制してもいいのではと思います。勿論、何らかの監視は必要ですが、今は営利企業とはいえ応援すべきではないでしょうか?

(6)統一地方選に関しては、特に被災地の場合は最低で半年の延期が必要と思います。例えば、岩手県の達増知事は選挙を当面気にせず救援と復興に邁進する、そんな顔の見えるリーダーシップを発揮していただきたいと思うのです。宮城も青森も、福島もそうです。知事がもっともっと前面に出てくださって、県民を激励すると同時に全国へ、そして世界へ救援要請をするというのが良いのではと思います。

(7)その東北の現場で今も必死の活動をしている、地方自治体職員、警察、消防、医療関係、自衛隊、そして各国からの支援者について、もう少し一段落した時点で良いので何らかの顕彰をするような報道が出てきても良いと思います。できれば、ネットで世界へも発信するような形がいいです。

(8)アメリカの各局は、エース級のニュースキャスターを週末に日本に入れています。週明けから「現場からの報道」体制が全開になるようです。彼等による情報発信が正確であること、建設的であることは、日本の今後の動きやすさを左右するように思います。私も注意して見てゆきたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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