コラム

アパホテルを糾弾する前に中国共産党がやるべきこと

2017年01月25日(水)19時15分
アパホテルを糾弾する前に中国共産党がやるべきこと

<中国共産党は、歴史の真実の上に数えきれないほどうそをついている。南京大虐殺についても、2つの疑問が拭えない>

 ニューヨーク大学の学生2人が最近ネットにアップした映像が、中国だけでなく全世界に波紋を広げている。映像は、彼らが日本のアパホテルの客室でアパグループの元谷外志雄代表が書いた本が置いてあるのを見つけたが、本は南京大虐殺や慰安婦の強制連行の歴史を否定するものだった――という内容だ。ソーシャルメディア新浪微博(シンランウェイボー)の彼らのアカウント上で公開されたこの映像は75万回近く転送され、40数万個も「讃(いいね)」が付いた。再生回数は既に1億2000万回を超えている。

 もともとあまり良くなかった日中両国の国民感情は、この事件でさらに悪化した。南京大虐殺をめぐる論争は再び中国の人々の怒りに火を付け、ネットユーザーは次々にアパホテルのボイコットを呼び掛けた。まず中国のホテル予約サイトが予約画面からアパホテルのページを削除し、そして中国政府の国家旅遊局が国内の観光企業とビジネス関係者に対してアパとの協力を全面的に停止するよう要求。アパホテルを政府が使用するホテルのリストから外し、アパホテルの中国での宣伝・広告を取り消し、さらに中国人旅行者にアパホテルを利用しないよう呼びかけた。

 一方、アパグループの元谷外志雄代表はまったく引かず、南京大虐殺を否定する主張を続けるのは言論の自由であり、自分の主張を変えることはなく、絶対にホテルから本を撤去しない、と宣言した。

 最近、拙著『マンガで読む嘘つき中国共産党』(新潮社)が出版された。その本に詳しく描いたが、中国共産党は自らの統治の正統性を守るため、歴史の真実の上に数えきれないほどうそをついている。日本軍が中国に侵入した時、国民党軍は主要な戦場で日本軍と直接戦ったが、共産党軍は戦いを避けて陝北などの農村根拠地で力を蓄えた。それだけでなく、こっそり日本軍と結託して、日本軍に国民党の情報を流した。だから49年の共産中国成立後、日本の友人が中国を訪問して謝るたび、毛沢東は謝る必要はない、むしろ日本が中国を侵略したことに感謝する、と語っていた。毛沢東は実際、日本の侵略に感謝していた。そうでなければ、共産党に権力を奪い取る機会はなかったからだ。

 更に興味深いのは、南京大虐殺の疑問点だ。私は最近、『毛沢東――日本軍と共謀した男』(新潮新書)の著者である東京福祉大学の遠藤誉特任教授に、この問題について話を聞いた。彼女によれば、毛沢東は彼の年表から判断するに一度も南京大虐殺を非難したことがなく、80年代以前は中国の歴史教科書も南京大虐殺に言及していなかった、という。

【参考記事】日本軍と共謀した毛沢東を、中国人はどう受け止めたか?

 はっきり覚えているが、私の小さい頃、中国の歴史教科書が南京について触れていたのは、「雨花台事件」だけだった。1949年に中華人民共和国が建国された後、南京の雨花台という丘に烈士の陵墓園が造られ、毛沢東は「国難に殉じた烈士万歳」と揮毫(きごう)した。南京大虐殺記念館の建設より30年以上も前のことだ。この間、南京市政府は雨花台で主に国民党によって殺された共産党員と共産党シンパを追悼していて、かなりの長期間、まったく南京大虐殺について宣伝していなかった。私はネット上で「雨花台」について調べてみたが、関係する資料は既に探せず、ただ雨花台が以前は刑場だったこと、国民党政府の統治時代に10数万人の共産党員とシンパがこの地で殺されたことが分かっただけだった。ここでも南京大虐殺と同様に、「10数万人」というぼんやりした数字しかない。中国では過去、精度の高い正確な人数の統計が存在したためしがない。これはおそらく、物事を徹底的に理解しようとしない中国人の欠点なのかもしれない。

 南京大虐殺のもう1つの疑問点は、共産党が討論や質問を許さず、常に被害者が30万人だと繰り返し強調するところだ。この数字は南京大虐殺記念館の石碑の上に刻まれてもいる。しかし、現在名前を確かめることができるはっきりした被害者のリストには、1万615人の名前があるだけだ。南京大学・南京大虐殺史研究所の張憲文(チャン・シェンウエン)所長によれば、本格的な統計作業が始まるのがかなり遅かったため、数十年前の被害者の情報を掘り起こすのは極めて困難だという。確かに数十年後に改めて調査することの難しさは理解できる。いかなる戦争や災害の被害者数もすべてはっきり調べなければならないはずなのに、どうやったらこのように厳粛な記念館の壁の上に30万人というはっきりしない数字を刻むことができるのか――物事の追求に厳格でまじめな日本人にしてみれば、そう思うのだろう。南京大虐殺記念館の陳列品や写真についても、日本の歴史学者は多くの間違いを発見している。

 このように様々な問題の中でも、特に共産党が断固として疑問を受け付けない態度は、日本の右翼にさらなる自信を与えている。南京大虐殺を歴史的事実と認める日本の歴史学者が中国を訪れ、中国政府と交流して調査を始めるのを望んでいるのに、中国政府はそれを拒絶し続けている。そのことが、元谷代表と彼の友人たちが南京大虐殺をデマである、と信じる結果につながっている。討論も調査も許さないのなら、事実そのものが怪しいではないか!という訳だ。

【参考記事】アパホテル書籍で言及された「通州事件」の歴史事実

 実際、その真実について議論や質問が許されない中国の歴史はかなり多い。いくつか例を挙げてみよう。58年から62年にかけて起きた全国的な大飢饉についてだが、共産党はその研究を禁止しているため、学者は正確な統計データが入手できず、死者数は1650万人から6000万人まで定まらない。文化大革命も同様に研究が禁止されているので、正確な統計が不足し、死者数は100万人から2000万人までさまざまな説が存在する。共産党軍が国民党軍の支配する長春を包囲し、多数の餓死者が出た48年の「長春包囲戦」や、89年の天安門事件も同じだ。

 中国では研究が禁止されている近現代史の分野が多く、犠牲者数も多い。そのことは、南京大虐殺そのものより深刻だ。そして、共産党の南京大虐殺に対する疑わしい態度は、日本の右翼に対する世論の支持に貢献している。共産党は元谷代表を厳しく非難してボイコットする前に、自分たちの歴史をよく見直すべきだ――私はそう思う。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送っている。

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