コラム

ワクチンをめぐる「差別」の危険な勘違い

2021年12月22日(水)19時00分

コロナワクチンをめぐる対立に出口はあるか(ニューヨークの接種義務化に反対するデモ) Eduardo Munoz/REUTERS

<ワクチン接種者への数々の優遇措置は非接種者への「差別」ではないのです。その理由を「差別」の定義までさかのぼって解説します>

「ワクチン未接種者への差別は禁止です!」

広島市はホームページでこう宣言している

だが広島県は新型コロナウイルスのワクチン接種をした県民向けに、抽選でマツダの車をプレゼント!さらに、洋服の青山の商品券ももらえるチャンスが!もっとすごいことに、ふりかけ「ゆかり」のドリンクが当たる!!という特典を展開していた

ということは、未接種者だと、車も洋服も、人生で一番欲しい「赤しそドリンク」ももらえない。どう見ても差別だ。

群馬県のホームページも「差別禁止」と言いながら、接種者を対象に県内で使える宿泊券が当たるキャンペーンをやっていた。ということは、非接種者だと群馬県の税金を使って、草津の素敵な温泉旅館に泊めてもらえないし、もちろんもっと素敵な軽井沢の温泉にも泊まれない!(すみません、前回のコラムの群馬差別の癖がなかなか抜けなくて......。)

このキャンペーンも差別だ!

「ワクチン打ったら1万円!」という焼き肉店の求人キャンペーンにみられるように、接種した従業員に対する現金の給付や、勤務シフトの優遇、特別休暇の付与など、特典を与える事業者もある。こういった接種者に対する好待遇は「差別か?」と、朝日新聞などは問う

その答えは、Yes! 明らかに差別だ!

だが、「差別」ではないかも。

2つの差別の定義の違い

そう。紛らわしいが、差別と「差別」は違う。そして、正当な議論のためにも、正確な意思の疎通のためにも、差別と「差別」を区別しないといけないのだ。

広辞苑によると、差別は、「差をつけて取り扱うこと」、「区別すること」を意味する。運転免許を持っているかどうかで、車の運転が許されるか変わる。成人かどうかで飲酒も許されるかどうかも変わる。漫才コンビのツッコミかどうかで、話の途中で怒鳴り、相手をひっぱたくことが許されるかどうかも変わる。

これらは、資格や年齢、立場などで取り扱いを分けているケース。つまり、(一応は)差別だ。

そして、お気付きだろうが、もう一つのパターンがある。異性愛者か同性愛者によって、ウエディングケーキを売ってもらえるかどうかが変わる。男性か女性かによって同じ試験の点数で学校に入学させてもらえるかどうかが変わる。体重、身長、肌の色などの身体的な特徴によって就職ができるかどうか、社会に受け入れてもらえるかどうかなどが変わる。

これらのケースも差別だ。だが、これらはその前の例と違う。取り扱いを分けている上、「正当な理由なく劣ったものとして不当に扱うこと」という、もう一つの差別の定義にも当たるものだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

デンソー、通期利益予想を下方修正 品質引き当て織り

ワールド

米国防総省のDOGE部門が軍のドローンプログラム見

ビジネス

第一三共、通期純利益予想を2880億円に下方修正 

ワールド

トランプ氏、上院フィリバスター規則の廃止要求 政府
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story