コラム

パックンが斬る、トランプ現象の行方【前編、人気の理由】

2016年03月10日(木)15時00分

 その二:共和党の反政府教育

 半世紀前から、数々の共和党系保守派のシンクタンクは「政府はわれわれの自由を奪い、個人の成功を妨げる、国民の敵だ。」というメッセージを各メディアで発している。それに支えられて、同じ理念を持つ政治家が徐々に力を増し、80年には保守派の大統領が誕生した。レーガン大統領のことだ。就任演説で「政府は問題の解決にはならない。政府自体が問題なのだ。」と言った瞬間、保守派の勝ちが決まった。当時、小学生だった僕にはわからなかったけどね。政府の存在の前に、まず親に自由を奪われているし。

  しかし、この思想の先には嫌な結論がある。政府が国民の敵であるならば、必然的に政治家も敵となる。「政府が動くと国民の障害になる」という主張を繰り返して当選した政治家は、もちろん議員として国を動かそうとしない。たとえ国民のために何かやろうと思っても、度重なる減税のため財源がないから、結局何もやらない国会になったというのが事実だ。その結果、現役の政治家がとんでもない不人気に陥ることとなる。現在の国会の支持率は14%ぐらい。「どっちが好き?」という質問形式の世論調査によると、水虫や犬の糞、大腸検査などが国会より好かれているらしい。逆に国会より嫌われているものは非常に少ない。エボラとリンジー・ローハンぐらいだ。

 職業政治家を嫌う人々の間で、素人のトランプが好まれるのは当然の結果。不謹慎な発言も非常識な政策もその素人さ加減を証明して、さらに人気につながる仕組みとなっている。共和党が撒いた種からトランプの花が咲いたわけだ。

【参考記事】「トランプ大統領」の危険過ぎる訴訟癖

 その三:髪型が面白い

 型破りのタレント候補であるトランプは、良し悪しを度外視すれば、とにかく見ていて面白い。その象徴となるのは世界から注目を集めた髪型。トランプはカツラ疑惑を払拭するためにバケツの氷水をかぶったり、イベントで客席の女性を舞台に上げ、髪を引っ張ってもらったりするパフォーマンスも行っている。実に面白い。 髪型だけではない。暴言も、暴走も、エンターテインメント性に富んでいる。瞬発的な面白さもある。たとえば、先月のディベートでマルコ・ルビオ候補に「あなたは同じことばかり繰り返している」との攻撃を受けたトランプは「いや、繰り返してない。繰り返していない」と、「繰り返して」反論した。実によくできたコントだ。 髪型も行動も面白いから、CM枠を買わなくてもメディアに取り上げられる。政策がなくてもニュースで取り上げられる。政治家として実績や能力がなくても大統領になれる・・・かも。ヒェェェ~~~!

 後編では、想像したくもない、トランプ大統領誕生というシナリオを考えてみよう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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