最新記事

米大統領選

「トランプ大統領」の危険過ぎる訴訟癖

名誉毀損法を強化してメディアを訴えると発言したこの男は、これまで批判者やライバルを訴えまくってきた「訴訟魔」だった

2016年3月2日(水)17時00分
ウォルター・オルソン(ケイトー研究所上級研究員)

訴えてやる! 合衆国大統領に当選すれば、ホワイトハウスに訴訟カルチャーを持ち込むのは間違いない Philip Sears-REUTERS

 2月26日、米大統領選候補のドナルド・トランプはこんな発言をしている。

「これからは名誉毀損訴訟をぶっ放していく。もしもニューヨーク・タイムズが侮辱的な記事を書いてきたら、あるいはワシントン・ポストがそんな記事を書いたら、訴訟を起こしてカネをもぎ取る。奴らはこれまで法を盾にして守られていたから訴訟にも負けなかったが、これからは違う」

 ワシントン・ポストはその前日、社説でトランプの大統領就任阻止を訴えたが、同紙の社主はアマゾン・ドットコム創業者のジェフ・ベゾス。トランプはアマゾンに対しても、「私が大統領になったら、アマゾンも厄介なことになるだろう」と言っている。

【参考記事】トランプは、ヨーロッパを不安にさせる「醜いアメリカ人」

 もちろん、大統領に名誉毀損法を変える権限はない。アメリカでは名誉毀損法は州法から成り、憲法によって制約されている。1964年のニューヨーク・タイムズ対サリバン裁判での連邦最高裁判決により、公人の場合、報道が虚偽であるという理由だけでは名誉毀損は成立しないとされている。

 大統領にできるのは、サリバン判例による報道の自由を覆す考えを持った最高裁判事を指名すること、あるいは、憲法の修正を目指すことだ。だが、膨大な時間をかけてこうした「変化」を達成しようという意図は、トランプにはないだろう。冒頭の発言も感情論でしかない。

【参考記事】「イスラム教徒の入国禁止」を提案、どこまでも調子に乗るトランプ

 不動産王のトランプはそのキャリアを通じて、批判してくる者や敵対する者に対して、訴えると脅したり実際に訴えたりしてきた男だ。

 ジャーナリストのティム・オブライエンが、比較的好意的なトランプの回顧録を書いたとき(綿密な取材を重ね、本人にもインタビューした上でだ)、トランプは本に書かれた自分の資産額が自分の考える額より低かったとして、オブライエンを訴えた。

自分の暴言を棚に上げて

 シカゴ・トリビューンの著名な建築批評家が、マンハッタン南端にトランプが建設を計画していた高層ビルをニューヨークで「有数の馬鹿げた建築物」になると批判したとき、トランプはその批評家を訴えた。

 投資会社のアナリストが、トランプの所有するカジノ施設「タージ・マハル」は破綻するだろうと予測したとき、トランプは訴訟をちらつかせて脅し、投資会社にそのアナリストを解雇させた(結果的に予測は正しく、タージ・マハルは破綻したのだが)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中