コラム

「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイランは想定していたか──大空爆の3つの理由

2024年04月17日(水)19時30分

③ロシアへの “脅迫” 

最後に、ロシアへの突き上げだ。

ロシアはイランと軍事協力協定を結んでおり、4月1日にイラン高官が死亡した事件では「政治的殺害」とイスラエルを批判した。

ただし、ロシアとイスラエルの関係は決定的に悪化しているわけでもない。

冷戦終結後、旧ソ連から多くのユダヤ人がイスラエルに移住したこともあり、ロシアとイスラエルは比較的良好な関係を保ってきた。

ガザ侵攻後、プーチン政権はイスラエルをしばしば批判するようになり、関係は冷却化したが、それでも経済取引や人的交流は続いている。

ウクライナで忙殺されるロシアは中東への関与を控えているとも指摘される。

この微妙な関係を反映して、イスラエルもウクライナ向け軍事援助をしていない。

このロシアの態度が、イスラエル攻撃の先頭に立つイランを苛立たせたとしても不思議ではない。とすると、イランはロシアを逃れられなくする必要がある。

こうしてみれば、空爆でイスラエルを挑発することは、どちらにつくかの踏み絵をロシアに踏ませるだけでなく、プーチン政権にもっと強いコミットメントを求める効果があるといえる。

イスラエルはどう動くか

空爆を受けてイスラエル政府では「断固たる対応」が検討されているが、その内容は今のところ不明だ。

一方、米バイデン政権はイランを非難し、イスラエル支援を増やす意向だが、その一方でイスラエル政府に「イランへの報復攻撃には参加しない」と言明し、自重を促した。

エスカレーションを恐れるアメリカが限定付きの協力しかしないなら、イスラエルにとってこれまで以上に戦線を拡大させるリスクは大きい。

かといって、保守強硬派に支えられるネタニヤフ政権にとっては無反応で済ますこともできないが、仮にイランへ大攻勢をかければ、それこそイスラーム各国やロシアがイランに傾く転機にさえなりかねない。

とすると、イランが行った300発以上の空爆はその直接的な損害こそ大きくなくても、イスラエルにとって悩ましい選択を迫るものであることは間違いない。それがイランの狙いだったかどうかは不明だが。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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