コラム

米中間選挙後にバイデン政権がウクライナ支援を縮小しかねない理由

2022年11月14日(月)16時30分
バイデン大統領

議会選挙投票日の翌日に記者会見するバイデン大統領(2022年11月9日) Tom Brenner-REUTERS

<予想以上の善戦で大敗は免れた民主党だが、バイデンはこれまでよりも共和党に配慮していかなければならない。バイデン政権に批判的な共和党議員は「アメリカの危機を放置している」と主張する>


・アメリカ議会の中間選挙で、事前観測にあった共和党の大勝は実現しなかったものの、上下両院で存在感を示した。

・選挙戦で共和党陣営には、バイデン政権によるウクライナへの巨額の支援に対する批判も目立った。

・議会でのバランスの変化は、バイデン政権のウクライナ政策にも影響を及ぼす公算が高い。

「赤い波」不発の意味

バイデン大統領は9日、議会中間選挙に関して「赤い波は起こらなかった」と述べた。

赤は共和党のシンボルカラーで、事前の世論調査では、経済対策などへの不満の高まりを背景に、バイデン政権に批判的な共和党が中間選挙で圧勝するという観測も少なくなかった。

ところが、フタをあけてみれば、共和党は上下両院の得票数でリードしながらも、いわれていたほどの大勝でもなかった。本稿執筆段階で結果はまだ確定していないが、共和党が勝利した場合でも、上下両院で過半数をギリギリ確保するレベルにとどまるとみられる。

アメリカ議会は法律を通じて大統領の決定を左右できる。

その一方で、日本の国会とちがって、アメリカでは議員ごとの独立性が高く、ケースバイケースで共和党議員が民主党の大統領の政策に賛成することも、あるいはその逆も珍しくない。

そのため、今後バイデン政権が共和党議員の間で支持をとりつけやすい政策や方針を打ち出すなら、議会への影響力を残すことも不可能ではない。いわばバイデン大統領にとって中間選挙の結果は「最悪の事態は免れた」といったところだろう。

巨額のウクライナ支援への批判

ただし、それは同時に、バイデン政権がこれまでより共和党に配慮しなければならないことも意味する。

それを最も警戒しているのはウクライナ政府かもしれない。

ロシアによる侵攻が始まった2月から10月までの間だけで、バイデン政権はウクライナ向けに合計約100億ドルの支援を決定してきた。

これに対して、共和党ではウクライナ支援そのものは否定していなくても、破格ともいえる金額の多さへの拒絶反応もあるからだ。

共和党の院内総務ケビン・マッカーシー下院議員(共和党が下院を握れば議長になる可能性が高い)は選挙戦の最中の10月、「下院で共和党が勝利したらウクライナにブランク・チェックを渡さない」と発言した。

ブランク・チェックとは金額欄が空白の小切手、つまり「好きなだけやる」という比喩だ。そのため、このマッカーシー議員の発言は「大盤振る舞いもいい加減にしろ」というバイデン批判といえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story