コラム

「国土強靭化」「競争力回復」「デジタル化」名目に注意...高市政権下で成長が止まるのはどんな場合か

2025年11月13日(木)09時05分

財務当局の行動を問題視する財務大臣の登場

もっとも、脱デフレという経済状況は世界標準でみれば、「当たり前の経済状況」に戻るだけに過ぎない。それでも、他国と同様の経済状況にすることで、税収を持続的に増やし、同時に財政規律を保つということである。

そのような経済状況でなければ、国民の生活向上を実現させ、そして安全保障強化のために財政支出を行うことが難しい、と片山大臣は認識しているとみられる。

片山大臣は、就任後の記者会見では、「責任ある積極財政」という高市政権の看板を踏まえて、「財政の帳尻を合わせることだけが究極目的なんじゃなく」「成長する日本を将来に残すこと」「国民に理解・感謝されるような方向にマインドセットを変えて、うまくいっていただきたいと強く望みながら戻ってきました」と後輩の財務省官僚に対してメッセージを送った。

アベノミクス発動以降、増税実現を最優先事項として動いてきた経緯をみれば、財務省が財政収支均衡に極めて高い執着心があることは明白である。財務当局の行動を明確に問題視する財務大臣が登場するのは、異例の出来事である。

片山大臣の発言を素直に読めば、岸田、石破両政権で続いた緊縮的な財政政策が、拡張方向に転換することが予想される。もちろん、「大臣の言葉だけ」で、経済成長を動かす規模の政策が伴わなければ、当然ながら政策転換にはならない。

現時点で片山大臣から、減税政策や歳出拡大の規模について、具体的な考えは聞かれていない。この理由は定かではないが、少数与党での政権運営となり、具体的な財政政策の発動の意思決定に時間を要しているとみられる。

あるいは、自民党内に均衡財政に強固なこだわりを持つ議員が多く存在していることが、減税政策の発動の障害になっているのかもしれない。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

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