コラム

2023年に懸念すべきは円安か円高か

2023年01月12日(木)19時30分

警戒すべきは予想外に円高が進むことではないか...... REUTERS/Remo Casilli

<日本の財政状況に関して悲観方向に偏った報道が、「根拠が薄い円安見通し」あるいは「円暴落論」に影響している......>

昨年の為替市場では1ドル150円台まで円安が一時進み、円買い介入が行われるなど大きく変動した。昨年末から年初にかけてドル円130円台前半で推移しており、2022年間では約14%円安ドル高が進んだ事になる。

「日銀による金融緩和で円の価値が失われる」「貿易赤字拡大や経済衰退が円安を促す」など筆者からみれば根拠が曖昧な議論がメディアで目立った昨年秋口に、極端に円安が進んだ様に思われる。一方、同様の理由で、2023年も円安が続くとの見方も散見されている。

「日本の財政状況が危機的である」「金融緩和が行き過ぎている」などの認識を抱く論者は、「悪い円安」「通貨安で国が貧しくなる」「キャピタルフライトが起きる」などの見方に傾きがちである。実際には、緊縮政策志向が強い経済当局の見解やそれを情報源にする大手メディアの報道は、日本の財政状況に関して総じて悲観方向に偏っている。それらが、「根拠が薄い円安見通し」あるいは「円暴落論」に影響していると筆者は常々考えている。

もちろん、米欧の高インフレとは比べようもないが、日本でも2022年は円安や食料品などの価格上昇が広がったこともあり、インフレ率は上昇し、2%インフレの目標実現に近づきつつある。ただ、これまでの金融緩和政策が、2%物価安定にようやく奏功しつつあるという段階だろう。

つまり、高インフレに程遠い現在の日本で懸念されるのは、円安リスクを唱える論者が論拠とする「財政政策が過大になっている」ことではなく、むしろ緊縮財政政策に早期に転換する事だろう。このため、財政政策への懸念が、大幅な円安を引き起こす可能性はかなり低いと筆者は考えている。

2023年米経済は大きく減速し、ドル安円高期待が強まる可能性

昨年12月後半以降、ドル円と米長期金利の連動性が崩れているが、2023年のドル円の動きは、22年同様にFRB(米連邦準備理事会)の政策動向や米国の長期金利が左右する側面が大きいとみられる。

FOMC(公開市場委員会)メンバーの大多数は、5%超までの利上げを続けることを想定している。米国では景気減速の兆候が増えているが、労働市場の逼迫が和らがない状況が続いている。FRBによる利上げ到達点は近づいているが、高インフレとの戦いをやめるにはもう少し時間がかかるとみられ、春先まではドル高円安に再び動く場面があってもおかしくないだろう。

ただ、FRBの大幅な引締めによって2023年の米経済は大きく減速する可能性が高く、年央までにはFRBの政策姿勢も変わるとみられる。筆者の予想が正しければ、為替市場ではドル高期待が年央までには薄れて、ドル安円高期待が強まる可能性がある。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国検察、尹前大統領の妻に懲役15年求刑

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=

ビジネス

英サービスPMI、11月は51.3に低下 予算案控

ワールド

アングル:内戦下のスーダンで相次ぐ病院襲撃、生き延
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story