コラム

「45歳定年」は130年前のアイデア? 進歩的過ぎるSF作家たちの未来予想図

2021年09月21日(火)19時00分

先を行き過ぎた45歳定年論?

ベルヌとウェルズの功績の大きさに埋もれがちでもあるが、他にも今に語り継がれるべき名著は数知れない。

例えば、両名の作品の合間を縫うように1888年に刊行された『顧みれば』(Looking Backward)がある。エドワード・ベラミーが米国で発表した作品で、西暦2000年の社会を舞台とした作品だ。ヨーロッパ各国で翻訳され、そこで描かれるユートピアを具現化しようという一大社会現象を当時巻き起こし、彼の書の愛読家らによる「ベラミー・クラブ」なるものが各地に登場した。

『100年後の社会』(1904年)といった著書でも知られるベラミーだが、『顧みれば』では、1887年に眠りに就いた上流階級の男性が、目が覚めると113年後の2000年になっており、文明の進んだボストンにて驚きの体験を繰り返すこととなる。

全天候型のドーム施設や空気清浄機などの機器のほか、クレジットカードの登場を予見するような描写もある。2000年前後の社会情勢と見比べると、その先見性を感じずにはいられない。

中でも、今日的で示唆に富むのが45歳での仕事の引退制度だ。その2000年の世界で、市民は教育課程修了の21歳から労働に従事し、45歳まで雇用される。完全雇用が保障されているのだ。報酬は労働の成果ではなく、その過程が評価されて同一賃金と定められている。

社会主義的な要素を多分に含んだユートピア像となっているが、日本でも45歳定年制が話題となる中、約130年前にも働く上限を45歳と定めていた作家がいたことには驚くも感銘を受ける。

ベラミーと言い、ベルヌ、ウェルズと言い、彼らの描いた未来は2020年代に入った今もまだ、多分に示唆を与えてくれている。彼らの功績もあって、20世紀に入ると未来学は着実に体系化され、学問的地歩を築いていった。

一方、20世紀は戦争の世紀でもあった。世界は2度の大戦を経験し、戦後も米ソ冷戦のきな臭い時代が続く。ユートピアとはほど遠い世界だったと言えるのではないか。

次回はその20世紀、未来学の確立期に光を当て、研究者や書籍とともに紹介していきたい。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

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