コラム

【徹底解説】DeepSeek革命のすべて

2025年02月15日(土)12時34分



アメリカ政府は2022年10月に、スーパーコンピュータの製造やAIの訓練に使う先端的ICの輸出を規制する政策を打ち出した。ICそのものの輸出を止めるだけでなく、中国企業が先端的なICを設計して台湾などに生産委託したり、あるいは国内でICを製造するために最先端の製造装置を輸入したりすることまで制限した。中国がスパコンやAIでアメリカにキャッチアップするのを徹頭徹尾封じ込めようとしたのである。

だが、輸出制限が厳しすぎると、エヌビディアなどアメリカのICメーカーが中国市場を失うことになってしまう。ICメーカーは対応せざるをえない。

これまでAIの世界ではエヌビディアのA100とH100というICが広く使われており、その点では中国も例外ではなかったが、規制によってそれらを中国に輸出できなくなったため、エヌビディアはアメリカ政府の規制に合致するように性能を落とした中国向けバージョンのA800とH800を開発した。

H800の場合、ICチップ間のデータ転送速度がH100の半分ほどに落とされているという(Reuters, March 22, 2023)。

DeepSeek-V3のテクニカルレポート(DeepSeek-AI, 2025)によると、V3はこのH800を2048個使い、それを2か月弱にわたって訓練した。H800を総計278万8000時間(つまり2048個×24時間×約57日)動かしたので、H800を1個1時間借りる料金が2ドルだとすると、コストは557.6万ドルだったというのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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