コラム

映画『グレートウォール』を作った中国のコンテンツ帝国が崩壊の危機

2017年08月17日(木)14時30分

ところが賈躍亭はここでなんと電気自動車(EV)を作ると言いだし、アメリカのEVベンチャー、ファラデー・フューチャーに投資しはじめた。賈躍亭はEVを2018年までに量産すべく今年7月までにすでに100億元余りを投資したといい、彼は楽視網の会長を辞めた後、EV生産のために立ち上げた「楽視汽車生態全球」という会社の会長に納まって、EV立ち上げに専念するためアメリカに渡った(『21世紀経済報道』2017年7月11日)。

EVのような新産業を切り開くには膨大な先行投資が必要である。中国では収益があがらないなかで先行投資を続けることを「カネを燃やす(焼銭)」という。ベンチャーのビジネスというのはどのみち「カネを燃やす」段階を経ることが避けられないが、楽視網を破綻の危機に追い込んでおきながら、なおも懲りずにカネを燃やし続けようとする賈躍亭に対して中国では非難囂々である。

賈躍亭が去った楽視網を引き継いで会長になったのは、大株主である不動産会社、融創中国を率いる孫宏斌である。実は楽視網は中国各地にかなりの土地を保有している。各地の地方政府は、楽視網が地元のコンテンツ産業を牽引してくれると期待して、楽視網が不動産開発をすると言えば喜んで土地を売ってくれたのである。楽視網は「ネットワーク・コンテンツ産業基地」を作るといった名目で北京、重慶、天津、浙江省、深セン、上海などにかなりの土地を取得した。こうした土地資産を売却するなどして有効に活用すれば当面の資金繰りの問題はある程度解決できるかもしれない(『経済参考報』2017年7月21日)。

インターネット関連企業のスキャンダルといえば日本で約10年前に起きた「ライブドア事件」を思い出す。本業で利益を得る仕組みが作れていないのに、投資家の期待が先行して資金が集まり、それで気が大きくなって他業種に乗り出すところなど楽視網にはライブドアと似たところがある。ベンチャーは燃やすためのカネを集めなければならないから、多かれ少なかれホラ吹きでなければならないし、ホラを吹いたら金が集まったという成功体験があると、味をしめてホラを繰り返してしまうのかもしれない。違うところは、ライブドアに比べて楽視網のほうが調達した金額が1桁多いことと、ライブドアの場合には虚偽の業績報告で投資家を騙したが、楽視網の場合にはこれまでわかっている限りで言えばまだ大言壮語のレベルにとどまっていることである。



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の手に新たなあざ、アスピリン服用が原因と

ワールド

ウクライナを「CCCプラス」に格上げ、債務再編で=

ワールド

トランプ氏、カナダへの「平和評議会」参加要請撤回

ビジネス

午前の日経平均は続伸、買い一巡後はもみ合い 日銀会
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 4
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 5
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ノーベル賞に選ばれなかったからグリーンランドを奪…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story