焦点:なぜ欧州は年金制度の「ブラックホール」と向き合えないのか

10月16日、 フランスの政治的行き詰まりは、欧州各国の政府が高齢化が進む有権者の要求と財政支出抑制の必要性の間で板挟みとなり、年金制度の財源不足をなかなか埋められずに苦戦している状況を示している。写真は3月、パリで年金支給額の引き上げなどを求めてデモを行う人々(2025年 ロイター/Benoit Tessier)
Francesco Canepa
[フランクフルト 16日 ロイター] - フランスの政治的行き詰まりは、欧州各国の政府が高齢化が進む有権者の要求と財政支出抑制の必要性の間で板挟みとなり、年金制度の財源不足をなかなか埋められずに苦戦している状況を示している。
年金を受け取る権利は長年にわたり欧州の社会契約の中核的な政策となってきた。しかし、多くの国では寿命の延びと出生率の低下によって、かつて標準的だった60代前半で定年退職して年金を満額受け取るモデルに必要な財源の余裕がなくなっているのだ。
しかし、過去数年にわたって多数の大規模な抗議行動や連立政権内の対立が示したように、こうした現実を有権者に理解させて議会の同意を得るのは非常にむずかしい状態が続いている。
フランス政府は今週、欧州連合(EU)の中で現在62歳と最も低い国の部類に入る年金受給開始年齢の引き上げ計画が延期に追い込まれた。
しかし、こうした事例はフランスに限らず、ドイツ、スペイン、イタリアも年金受給開始年齢の引き上げや給付額の上限設定を巡る取り組みが失敗したり、撤回されたりしている。
理由は単純だ。欧州の有権者の年齢中央値は現在40代半ばで、政府が高齢世代を犠牲にして若年世代を優遇しようとすれば政治的な代償が大きすぎる。
IESEビジネススクールの経済学教授で、貯蓄と年金を専門とするハビエル・ディアス・ヒメネス氏はインタビューで、こうした事情を「民主主義が人口学的に乗っ取られた状態」と表現した。「高齢者は常に自分たちに約束された年金を全て受け取れるのだと保証されなければ、どのような改革も完全に阻止するだろう」と語った。
しかしながら、オランダが綿密に組み立てて議論に時間をかけた結果として制度改革を実現したように、改革を成し遂げるのは可能だ。
<改革は常に圧力下でしか成立しない>
この10年間のギリシャ、ポルトガル、イタリア、スペインや1990年代のスウェーデンように年金制度改革が実現した国々は、金融市場や国際的な貸し手からしばしば強い圧力を受けた。
イタリアのエルサ・フォルネロ労働大臣は2011年、最低退職年齢の引き上げと多くの年金受給者に対する年間物価調整の廃止した際、記者会見で涙を流した。こうした制度改革の困難さを物語る光景だった。
フォルネロ氏は当時を振り返って、イタリア国債がユーロ圏を崩壊させかねないほどの大規模な債務危機の一環として急激に売り込まれていた状況からすれば、他に選択肢はなかったと話す。「誰かを処罰するために改革を実行したのではなく、イタリアが依存していた金融業界が真剣で即効性のある改革を求めていたからだ」とロイターに語った。
実際に、2006―15年にEUで実施された主要な年金制度改革を分析した学術研究によると、政府は市場圧力にさらされてようやく年金制度の改革に踏み切る覚悟を決める傾向にあるという。
フランスはこうした圧力がまだ存在せず、国債の利回りは安全資産とされるドイツ国債に比べて80ベーシスポイント(bp)高い程度だ。イタリアはユーロ危機の絶頂期に500bp程度まで達していた。
イタリア・シエナ大学の教授のマッティア・グイディ氏は「フランスに対する市場圧力が小さければ、改革はそれほど厳しくならないだろう」と述べた。
<骨抜きという次の脅威>
危機時に実施されたギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインの年金制度改革は、各国の財政をより持続可能な軌道に乗せたと評価されている。
しかしながら、そうした状況であっても改革が完全に、あるいは少なくとも完全でなくても、今後そのままの姿で存続できる保証はない。
イタリアとスペインは危機が終わった後で、段階的に改革の一部を凍結し、あるいは骨抜きにしてきた。
ポルトガルとギリシャでさえも、この10年間で救済措置と引き換えに年金給付額を大幅削減したのに、その後給付水準を引き上げ、さらなる増額も検討している。
非営利団体「欧州ユース・パーラメント」で年金に関する報告書を共同編集したジョアオ・シルバ氏は「政治的そして経済的な合意が広く形成できなければ、改革は長続きしない」と述べた。
改革の勢いはドイツ、アイルランド、英国でも弱まっている。英国は年金給付額の引き上げを算定する仕組みである「トリプルロック制度」に手をつけることすらできていない。
しかしながら、いくつかの国は突破口を見いだしたように思われる。
オランダは従来の確定給付型から在職期間中の積立額に応じて給付額が決まる確定拠出型に移行する改革が、10年に及ぶ交渉を経て幅広い支持を受けて承認された。
深刻な金融危機に見舞われたスウェーデンは1990年代に同様の改革を成立させた。改革は当時不人気だったが、今では国の経済的な安定のために不可欠だったと評価されている。
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