コラム

宝山鋼鉄-武漢鋼鉄の大型合併で中国鉄鋼業の過剰設備問題は解決へ向かうのか

2016年10月11日(火)16時20分

江蘇省連雲港に積まれた輸出用鋼材 China Daily/REUTERS

<大型合併による集約化で鉄鋼の過剰設備を削減する方法はうまくいかない。大手は中小メーカーより経営効率が劣るからだ。鉄鋼大手の生き残りには思い切った発想の転換が必要だ>

 米大統領候補のヒラリー・クリントンは、今年6月にサンディエゴで行った対外政策に関する演説で「我々の敵(rivals)」としてロシアと中国を名指ししました。ロシアが敵であるのはウクライナからクリミア半島を奪取したりしているからですが、中国が敵である理由としてヒラリーが挙げたのは「アメリカに鉄鋼をダンピング輸出していること」でした。

 実際、アメリカは中国からの鉄鋼輸出攻勢にかなり苛立っており、ここ2年ほどの間に炭素鋼線材、シームレス炭素鋼管、ステンレス鋼板など7品目の鋼材に関して中国からの輸入に対するアンチダンピング課税の調査を始めたり、発動したりしています。

米保護主義の隠れ蓑

 もっとも、中国の肩を持つわけではありませんが、中国は本来の意味でのダンピング、すなわち自国での価格よりも輸出先での価格を安くして相手国の市場を奪い取ろうとする行為をしていなくてもアンチダンピング課税をされてしまう、という可哀想な状況におかれています。なぜかというと、中国が2001年にWTOに加盟したときに、他の加盟国がしばらくの間は中国に対して「市場経済地位(market economy status)」を与えなくてよい、という条件を飲まされてしまったからです。

【参考記事】最近、中国経済のニュースが少ない理由

 市場経済地位を与えないとは、中国の輸出をダンピングと認定して課税する時に中国国内の価格を参照しなくてよいということを意味します。他国が中国製品は安すぎると思ったら、どこか適当な第3国の値段を比べてそれよりも安いことを示しさえすれば良いのです。アメリカはこの条項を利用して好きなように中国を叩いている、アンチダンピングはアメリカの保護主義の隠れ蓑だ、と中国はみています。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story