コラム

宝山鋼鉄-武漢鋼鉄の大型合併で中国鉄鋼業の過剰設備問題は解決へ向かうのか

2016年10月11日(火)16時20分

 この言い分には一理ありますが、鉄鋼業に関していえば、中国が厳密な意味でダンピングを行っているか否かは別として、生産能力を異常に増やしてしまう体質を放置したままでは、まともな市場経済体制とみなされなくてもしょうがないと思います。実際、2015年の中国の粗鋼生産量は世界のちょうど半分の8億トンでしたが、粗鋼生産能力は12億トンで、実に4億トンもの過剰生産能力がありました。つまり生産能力をフルに稼働したら世界需要の4分の3を占めてしまうわけです。

 中国が世界の生産の半分以上を占めている産業というのは他にもいろいろありますから、その数字自体が異常だというわけではありません。しかし、「鉄は国家なり」という言葉に象徴されるように、鉄鋼は一国の工業の主柱であるという認識はいまだに強く、中国が輸出攻勢によって他国の主柱をなぎ倒していくことは大きな反発を買います。過剰な鉄鋼生産能力のはけ口を外国に求めていくことは外交的には望ましくない結果をもたらすでしょう。

トップ5社に集約?

 外交的配慮は別としても、12億トンもの膨大な粗鋼生産能力は、資源配分の無駄を示しており、能力の過剰をなくしていくことは中国経済の生産性向上に大いにプラスになるはずです。そこまでは中国の内外でコンセンサスが得られるところであり、中国政府も今年から5年間で1~1.5億トン分の生産能力を削減する方針を明らかにしています。

 問題は中国に何千社もある鉄鋼メーカーのうちどの企業の能力を削減していくべきかという点にあります。この問題に対する中国政府の方針は一貫していて、それは大型鉄鋼メーカーを合併などによっていっそう巨大にして強化し、中小鉄鋼メーカーを淘汰することで産業を集約化していく、というものです。

【参考記事】中国経済の足を引っ張る「キョンシー企業」を退治せよ

 例えば、2005年に出された「鉄鋼産業発展政策」では上位10社の粗鋼生産量を2010年までに全体の50%以上に、2020年には70%以上に高めるという目標を定めています。2009年に出された「鉄鋼産業調整・振興計画」ではさらに一歩踏み込んで、宝山鋼鉄、鞍山・本渓鋼鉄、武漢鋼鉄などを生産能力5000万トン以上の巨大メーカーに育てることでトップ5社に生産能力の45%以上を集中する一方、一定規模以下の小型メーカーを淘汰するとしています。2015年3月に出された「鉄鋼産業調整政策(改定案)」でも、2025年までにトップ10社の粗鋼生産量を全体の60%以上にすることを目標としています。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:中国で婚姻数回復傾向続く、ドレス業界が期

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク

ワールド

北朝鮮抑止「韓国が主な責任」、米国防総省が関与縮小
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 9
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 10
    東京の火葬場6カ所が「中国系」...日本には「葬儀安…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story