コラム

安くて快適な「白タク」配車サービス

2015年12月07日(月)19時34分

 タクシーは複数の客を相乗りさせて二重に料金をとりたいだろうから、むしろ人が乗っている車のほうが乗せてくれると睨んだのです。我々は二人で荷物もあるので、タクシーの側からすると空車のときに我々を乗せてしまうと他に相乗り客を乗せられなくなってしまいます。知人の狙いは見事に的中し、我々は別の客が一人乗っている車に相乗りすることができました。

タクシーの供給不足は構造的

 タクシーの供給不足が起きるのは各地の地方政府が参入制限を行っているためです。北京市の場合、2003年末のタクシーの台数は6万5000台でしたが、2012年には6万6000台に増えたのみです(『21世紀経済報道』2015年1月15日)。この間に北京市の人口は1000万人近く増えているので、タクシーが足りなくなるわけです。参入制限を行っているのはタクシー会社(国有企業が多い)の既得権益を守るためだと言われています。

 一方、タクシーの料金は長年据え置かれていますので、供給が制限されるわ、値段は安いわで、供給不足が常態化しています。

 そうしたなか数年前からスマホでタクシーが呼べる「滴滴打車」、「快的打車」などのサービスが始まり、需給のマッチングにそれなりに役立ちました。しかし、根本的にはタクシーが足りないという問題があり、タクシーを呼んでも3割ぐらいのケースではタクシーが見つからない状況だったため、滴滴打車ではマイカーの所有者にもネットワークに加わってもらうことにしました。

 こうして中国で白タク配車サービスが始まりました。並行してアメリカから「優歩」が中国に進出し、さらに専属運転手、専属車両を売り物とする高級路線の「神州専車」が2015年1月に参入するなど、白タク配車サービスがいま急速に発展しています。

内外の大手企業の出資で発展

 今や各種の白タク配車サービスに登録されている自動車の数は中国全土で1000万台ぐらいではないかと推計されています(『経済参考報』2015年9月15日)。「滴滴打車」と「快的打車」が合併してできた「滴滴快的」には2015年7月にアリババ、テンセント、テマセクなどが総計20億ドル出資し、「神州専車」にはレノボなどが8億ドル出資し、「優歩」にはインターネット検索大手の百度などが12億ドル出資するなど、内外の資本もこの新興産業に流入しています(『経済参考報』2015年9月18日)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story