コラム

岸田辞任ドミノの遠因──「パー券政治」というカラクリが日本政治をダメにしている

2022年11月29日(火)17時25分
岸田首相

相次ぐ不祥事と閣僚辞任で岸田政権の支持率は低迷する一方 JORGE SILVAーREUTERS

<1カ月で大臣3人が辞任に追い込まれた岸田内閣だが、閣僚の政治資金規正法違反は本当に形式犯なのか。政治家事務所による、ずさん会計処理の背景にある「パー券政治」を考える>

この1カ月で3人の大臣が立て続けに辞任に追い込まれ、岸田文雄首相本人にも空白領収書の問題が浮上した。旧統一教会問題に続き、岸田政権は今「政治とカネ」の問題でも危機に瀕している。

寺田稔前総務相のように、政治資金制度を所管する総務相自身の政治資金収支報告書が故人名義だったとなると、入閣時の「身体検査」がどれほど形骸化しているか嘆息する人も多いだろう。

かつてのロッキード事件のような億単位の金が飛び交う古典的贈収賄ではなく、政治資金収支報告書上の形式的な虚偽記載にすぎないという指摘もある。しかし、その矮小さはむしろ日本の民主政が危機に直面していることを物語る。

今回の政治とカネ問題に共通するのは、政治資金のずさんな処理と問題発覚後の説明の不十分さだ。

選挙後15日以内に提出しなければならない選挙資金の収支報告だけでなく、通常の政治活動の資金繰りを報告する年に1度の収支報告も、多忙を極め人手不足が恒常化する多くの政治家事務所にとっては負担が大きく、ずさんな処理の温床となる。収支報告時の外部監査制度は形骸化しており、政治家の側にも内部統制の発想は乏しい。

政治家は政治資金パーティーを開催して活動資金を捻出する。政党から支給される交付金では足りず、さりとて実名住所が公開される個人献金を嫌う人は多い。そこで20万円(2万円券10枚分)以下であれば匿名で処理できる政治資金パーティーのチケット(パー券)をできるだけ多くの支援者に売る政治文化が、与野党問わずはびこっている。

パー券売上額と開催実費との差額を収益とすることは政治資金規正法で認められており、差額の極大化を狙って実際の収容者数よりも多い枚数のパー券を売りさばく水増し販売も横行している。

政治家にとって「支持の拡大」すなわち次回選挙で投票してくれる地元有権者の獲得と並んで、「支援の拡大」つまり必ずしも選挙区での投票とは関係のない在京企業経営者や業界団体などからの政治資金獲得は重要である。

親から政治団体を継承し実質的に相続税を払うことなく豊富な資金を受け継ぐ2世や3世議員、あるいは事業で成功した資産家ではない普通の議員は、天下国家を論じる前に日常の政治資金を獲得することを優先しがちだ。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国は重要な隣国、関係深めたい=日中首脳会談で高市

ワールド

米中国防相が会談、ヘグセス氏「国益を断固守る」 対

ビジネス

東エレク、通期純利益見通しを上方修正 期初予想には

ワールド

与野党、ガソリン暫定税率の年末廃止で合意=官房長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story