コラム

政権与党は「反移民」を安易に真似ていいのか...英国では「永住権」の廃止案が裏目に出る可能性

2025年10月04日(土)18時11分

5月、キア・スターマー首相が「英国は『よそ者だらけの島』になってしまう危険性がある」と語った直後、60代のアフリカ人男性は暴力集団に襲われ腕を骨折した。あまりに恐怖を感じた彼は何週間も自宅から外に出られなくなった。難民の支援者も攻撃対象となっている。

先の内閣改造まで国境安全・難民問題を担当したアンジェラ・イーグル現食料安全保障・農村地域担当閣外相は政権に就いて以来、不法滞在者3万5000人以上を送還してきた。その中には5200人超の外国人犯罪者も含まれている。強制送還数は2018年以来最高水準だと強調する。

永住権を得た数百万の移民の地位・権利・将来を脅かす

難民申請者用ホテルは2年前の400棟から200棟に半減、1日当たりの費用も900万ポンドから550万ポンドに減った。イーグル閣外相は「難民申請者用ホテルはすべて閉鎖すべき」と考えているものの、他の地域や自治体に新たな問題を押しつけない形で行わなければならない。

改革英国党は英国に移住してきた人々が取得できる「永住権」を廃止し、5年ごとに滞在ビザを申請し直す改革案を発表した。これについて英マンチェスター大学のロブ・フォード教授(政治学)は「改革英国党の戦略は裏目に出る可能性がある」と冷静に分析する。

「これまで改革英国党の政策は新規流入者の数を減らし、犯罪者や不法移民の国外追放を容易にすることに重点を置いていた。しかし今回の提案は合法的に長年居住し、家族を築き、永住権を得たと信じていた数百万の移民の地位・権利・将来を脅かす」(フォード教授)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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