コラム

カトリック系初の北アイルランド首相が誕生...オニール氏の下でアイルランド「再統一」論が熱を帯びる

2024年02月06日(火)18時04分
北アイルランドのミシェル・オニール新首相

ミシェル・オニール新首相 Suzanne Plunkett-Reuters

<北アイルランド新首相に就任したのは、爆弾闘争を続けたIRAの元政治組織シン・フェイン党のミシェル・オニール副党首。再統一論争が再燃している>

[ロンドン発]英国本土からの分離とアイルランドの再統一を唱えるカトリック系シン・フェイン党のミシェル・オニール副党首(47)が2月3日、英・北アイルランド自治政府の首相に就任した。カトリック系首相の誕生は史上初だ。アイルランドでもシン・フェイン党が政党支持率で1位を独走しており、アイルランドの南北再統一論争が一気に熱を帯びてきた。

死者約3600人を出した紛争で爆弾闘争を続けたアイルランド共和軍(IRA)の元政治組織シン・フェイン党は2022年の北アイルランド議会選で初めて議会第1党に躍進した。しかし英国との統合維持派のプロテスタント系民主統一党(DUP)が欧州連合(EU)離脱でアイリッシュ海に通関が発生することに反発、自治政府から離脱し、政治の空白が続いていた。

スナク英政権は「統合を守る」と題した文書をDUPと交わし、行き詰まり打開に動いた。しかし研究プラットフォーム「変化する欧州の中での英国」のジョエル・ルランド准研究員によると、EU域内に流入するリスクのないモノについて書類手続きを簡素化し、検査をほぼ撤廃する「グリーンレーン」が「英国域内市場システム」という名に変わったに過ぎない。

将来、英国本土と北アイルランド間に生じる恐れのある乖離について事前に北アイルランド議会がブレーキをかけたり、英国政府が評価したりする予防策の詳細が文書に盛り込まれた。与党・保守党がDUPを自治政府に復帰させる「おためごかし」として文書を作成したとしても、穏健派の労働党政権に交代すれば「対立」より「協調」が一段と重視される。

「すべての人のための自治政府首相になる」

北アイルランドの制度はもともと多数派のプロテスタント系ユニオニスト(英国との統合維持派)がすべてを統治するよう設計されていた。しかし1998年の北アイルランド和平(ベルファスト)合意で帰属問題は棚上げされ、北アイルランドの将来の帰属は住民の意思に委ねられた。今やカトリック系人口は42.3%とプロテスタント系の30.5%を逆転している。

オニール新首相は和解に焦点を当てた就任演説で「すべての人に平等に仕え、すべての人のための自治政府首相になる。どこの出身であろうと、どのような願望を抱いていようと、私たちはともに未来を築くことができるし、また、そうしなければならない。自治政府はすべての国民、すべてのコミュニティーに対して責任を負う」と強調した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

シェブロン、英北海事業から完全撤退へ 残る資産の売

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ロシアとの武器交換を否定=KCN

ワールド

米大統領、トランプ氏の予測違いを揶揄 ダウ4万ドル

ビジネス

アングル:米株が最高値更新、市場の恐怖薄れリスク資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story