コラム

ウクライナ戦争の行方は、春には決まる...鍵を握る、ロシアに「残された勝利への道筋」

2023年02月23日(木)10時46分
イギリスで訓練を受けるウクライナ兵

イギリスで訓練を受けるウクライナ兵(英ボービントン・キャンプ、2月22日) Toby Melville-Reuters

<春にウクライナが優位に立てるかは、現在のロシア軍の攻勢に対して予備部隊を投入せざるを得ない状況を回避できるかにかかっている>

[ロンドン]ロシアのウクライナ侵攻1年を前に、ウラジーミル・プーチン露大統領は21日の年次教書演説で、米露の間に残された最後の核軍備管理条約である新戦略兵器削減条約(新START)への「参加を停止する」と表明した。射程150キロメートルのロケット弾GLSDBなどウクライナへの長距離兵器供与を始める西側を改めて牽制した。

プーチンは相手に責任をなすりつけて侵略を正当化する転倒した論理を繰り返した。「キーウがロシアの戦略的航空基地を攻撃しようとしたことに西側は直接関与している。にもかかわらず北大西洋条約機構(NATO)から核防衛施設への査察の申し入れがあった。偽善と皮肉の極み、バカの極みというか不条理劇場だ。米国が核兵器実験をすれば、ロシアもやる」

ウクライナ東部、南部を占領するロシア軍はウクライナ軍の砲撃の射程に合わせて後退してきた。米M142高機動ロケット砲システムHIMARSからGLSDBを発射できるようになれば弾薬庫や補給基地をさらに後退させなければならない。そうなると現在の前線を維持するのが難しくなる。一方、西側は自分たちが戦争に巻き込まれないよう慎重に閾値を上げてきた。

プーチンは「愛する人を失った家族を支援し、子供たちを育て、教育と職業を与えることは私たちの義務だ」として国家基金の設立を提案する一方で、戦時経済体制への移行を示した。「石油の代わりに大砲と俗に表現される。国防は最重要課題だが、自国経済を破壊してはならない。昨年、農業生産は2桁の伸びを示した。失業率は3.7%と歴史的な低水準だ」

バイデン氏「世界は見て見ぬふりをすることはない」

「ロシア経済は顕在化したリスクを克服した。昨年、景気が悪化したのは第2四半期だけだ。盤石な国際収支のおかげで、ロシアは外国に頭を下げて借金をし、どういう条件で返済するか、長い協議をする必要がない」とプーチンは胸を張った。演説では4州占領を既成事実化する一方で、大砲と石油の力でウクライナと西側との戦争を継続する姿勢を新たにした。

これに対し、ウクライナを電撃訪問した米国のジョー・バイデン大統領はワルシャワに移動して演説し「プーチンは、炎と鋼鉄で勇気が鍛えられた男が率いる国と戦争になった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領だ。キーウは強く、生きている。世界は見て見ぬふりをすることはない」とウクライナを全面的に支える姿勢を強調した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏新党結成「ばかげている」、トランプ氏が一蹴

ワールド

米、複数の通商合意に近づく 近日発表へ=ベセント財

ワールド

米テキサス州洪水の死者69人に、子ども21人犠牲 

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story