コラム

スエズ運河の座礁事故が浮き彫りにしたコンテナ船の超巨大化リスク

2021年03月29日(月)13時15分
スエズ運河で座礁した超大型コンテナ船エバーギブン

座礁したエバーギブンにはコンテナが満載(3月28日)  Suez Canal Authority/REUTERS

[ロンドン発]世界の海上輸送の12%を占めるエジプト・スエズ運河で3月23日、正栄汽船(愛媛県今治市)所有の世界最大級コンテナ船「エバーギブン」(全長400メートル、幅59メートル、総トン数約22万4千トン)が砂嵐のため座礁し、運河を塞いだ事故は29日になって離礁し始めたものの約330隻が立ち往生し、グローバル化に伴うコンテナ船の超巨大化リスクをまざまざと見せつけた。

evergivenposition.jpeg

1869年に開通したスエズ運河は拡張工事を重ね、現在は総延長193キロメートル、幅205メートル、深さ24メートル。2015年にはそのうち72キロメールが複線化された。もちろんコンテナ船の超巨大化に対応する狙いもある。01年に世界貿易機関(WTO)に加盟した中国はスエズ運河経由で習近平国家主席のインフラ経済圏構想「一帯一路」を欧州に広げている。

kimurasuezpicture.jpeg
スエズ運河の拡張工事を祝う看板。右からナセル、サダト、シシ大統領(2019年筆者撮影)

1997年当時、新型コンテナ船に積めたのはTEU(20フィートコンテナ換算)8千本超だったが、今はその3倍の2万4千本。背景には中国の貿易量が飛躍的に増えたことがある。

Allianz_50_years_of_container_ship_growth_infographic.jpeg

全長400メートルの「エバーギブン」がどれだけデカイかと言うと、日本一高い東京スカイツリーの高さは634メートル、東京タワーは333メートル、あべのハルカス300はメートルだ。東京タワーよりはるかにデカイ。

さらにコンテナ1万8349本(最大2万124本積載可能)を積み上げて横から強風を受けながら運河のような細い航路を通過するのは、パイロット(水先人)が乗り込んでいたとしても相当な操船技術が求められる。座礁の原因は今のところ風速15~20メートルの砂嵐とみられているが、船員の操船技術に問題はなかったのか。

1994年には1キロリットル当たり1万4千円だった燃料のC重油は2008年には約6.4倍の最高値8万9550円まで高騰した。燃料費だけでなく船員費用・港湾施設使用料・管理費用の節約、建造費の回収など、コスト削減のためコンテナ船の超巨大化は一気に進んだ。世界金融危機や米中貿易戦争でグローバル化に急ブレーキがかかり、過当競争になったこともさらに超巨大化に拍車をかけた。

「コンテナ革命」を起こした男

しかし港湾施設の整備や操船技術など船員のレベルアップが追いつかないというリスクが以前から指摘されていた。コロナ危機による港湾の労働力不足、供給の停滞に加え、今回の座礁事故でスエズ運河が完全に遮断され、グローバルサプライチェーンの脆弱性が改めて浮き彫りにされた。

物流のコンテナ化を進め、世界貿易を一変させたのは、米ノースカロライナ州の農家に生まれたマルコム・マクリーン(1913~2001年)だ。10代の時、ガソリンスタンドのオーナーから「そこにある古いトレーラーを使っていい」と言われ、空になったタバコ樽を運ぶようになった。高校を卒業して3年後の1934年に兄弟2人とトラック運送業を始めた。まだ大恐慌の時代だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story