コラム

韓国で今「女性徴兵論」が流行る理由

2021年06月28日(月)16時10分

検査は、心理検査と身体検査が行われ、検査結果に資格、職業、専攻、経歴、免許等の項目を反映してから最終等級(1級~7級)を決める。判定の結果が1~3級の場合は「現役(現役兵)」として、4級の場合は「補充役(社会服務要員、公衆保健医師、産業機能要員等」として服務する。一方、5級は「戦時勤労役(有事時に出動し、軍事支援業務を担当)」、6級は「兵役免除」、7級は「再検査対象」となる。

兵役の期間は1953年の36カ月から段階的に減り、現在は18~21カ月まで短縮された。月給(兵長※基準)も1970年の900ウォンから2021年には60万8500ウォン(約66,700円、 兵役は義務なので最低賃金を下回る。参考までに2021年の最低賃金は1時間8,720ウォンで、月209時間基準で182万2480ウォン(約17万8790円))に大きく引き上げられた。兵役の期間も短くなり、給料水準も改善される等服務環境は大きく改善されたものの、若者は兵役を嫌がる。

※伍長の下、上等兵の上に位置する軍隊の階級

兵役の補償問題がジェンダーの問題に

若者が兵役を嫌がる理由は、厳しい訓練、体罰、命令・服従等の縦社会への抵抗感、時間や行動の制限、学業が中断され就職が遅れるという不安感、集団生活や軍隊施設への不慣れ、軍隊にいる間に恋人が変心する可能性が高いなど様々だ。親たちも子どもの兵役期間中に戦争でも起きるのではないか、事故により怪我でもするのではないかという心配で除隊するまで不安でたまらない。

特に兵役中の若者の最大の懸念は兵役の義務を終えた後の進路、つまり「就職」のことである。昔は、6級以下の公務員採用試験で、2年以上兵役の義務を果たした人には得点の5%、2年未満の兵役の義務を果たした人には3%を加算する「軍加算点制度」が実施(1961年から)されていた。しかしながら、この制度は兵役の義務がない女性に対する差別につながるとして論議を呼び、1999年に憲法裁判所で違憲と決定されてから廃止された。

その後、女性の学歴上昇と男女平等を目指す機運の高まり、そして「積極的雇用改善措置」等女性の労働市場参加を支援する制度の実施等により、女性の労働市場参加は増え続ける一方、兵役の義務を終えた20代男性を含めた若い男性の就職は益々厳しくなっている。

そこで、若い男性を中心に兵役を果たした人に、ある程度のインセンティブを提供する「軍加算点制度」の復活を主張する意見が継続して提起されている。そして、1999年に「軍加算点制度」が廃止されてから、兵役義務者に対する補償問題がジェンダーの論争に発展し、女性も兵役の義務を負うべきだという「女性徴兵論」に賛同する男性が増えている。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story