コラム

韓国の破産も招きかねない家計債務の実態

2020年01月10日(金)11時10分

韓国ではこの男性のように、退職後、食べていくために小さな店を開く人が多い Kim Hong-Ji-REUTERS

<韓国政府は最近、家計への貸出規制を強化した。家計債務の急増を抑えるためだ。しかしそのせいで、既に多額の借金を背負った低所得層や非正規労働者の生活はますます苦しく、格差は広がる一方になっている>

韓国における家計債務が継続的に増加している。2019年第3四半期末の家計債務総額は1573兆ウォンで、前年同期比で3.9%増加した。家計債務とは、家計部門が抱える金融機関などからの借金のことであり、住宅や自動車のローン、クレジットカードを使った借り入れなどが含まれる。

OECD加盟国における家計債務の対可処分所得に対する比率を見ると、韓国は186.0%と、データが利用できるOECD加盟国の中で6番目に高く、日本の107.3%を大きく上回っている。しかも、過去10年ほどの上昇率も他の国を上回っている。韓国政府がOECDにデータを提供し始めた2008年と直近2017年のデータを比較してみると、韓国の家計債務の上昇率は29.8%で、OECD加盟国の平均上昇率2.4%を大幅に上回っている。

OECD加盟国における家計債務の対可処分所得比
Kim200108_OECD.jpg
出所)OECD National Accounts Statistics: National Accounts at a Glance


四半期別家計債務と貸出金利の推移

Kim200108_2.jpg
注)貸出金利は、「銀行の信託勘定家計貸出金利」 出所)韓国銀行「通貨金融統計」

債務が多いのは40代と自営業者の世帯

一方、韓国統計庁、金融監督院、韓国銀行が2019年12月に発表した「2019年家計金融・福祉調査結果」によると、2019年3月末の韓国の1世帯当たりの家計債務は7910万ウォンで、前年同月の7668万ウォンに比べて3.2%増加した。債務を抱えている世帯の割合は63.8%で、その額は「1千万ウォン以上~3千万ウォン未満」が17.5%と最も多く、「2億ウォン」以上も17.2%を占めた。世帯属性別に見ると、40代世帯と自営業者世帯の家計債務が多いことが示されている。

また全世帯を5等分した所得五分位階級別に見ると、所得が最も多い第V階級が44.8%、次に所得が多い第Ⅳ階級が24.9%で、所得上位40%の世帯が家計債務の69.7%を占めることが明らかになった。家計債務の内訳は、住宅購入などの住宅担保貸出が57.9%と最も多く、次いで賃貸保証金(27.2%)(家を借りる時にまとまった保証金を家主に預けると月々の家賃が免除される独特のシステム)、信用貸付(9.9%)の順であった。

では、なぜ韓国では家計債務が急増しているのだろうか。第1に考えられる理由として、低金利が長期間続いたことが挙げられる。2008年8月に5.25%まで上がった韓国銀行の基準金利はその後低下し続け、2019年12月には1.25%まで低下した。基準金利の影響を受け、金融機関の貸出金利も低下している。例えば、アジア経済危機の影響により1998年第2四半期に17.7%にまで上昇した「銀行の信託勘定家計貸出金利」は、2017年第2四半期には2.89%まで低下した。不動産価格が上昇する中で、低金利貸出に対する需要が増加したと考えられる。

<参考記事>一人当たりGDPが増えても普通の韓国人が豊かになれない理由
<参考記事>日本不買運動で韓国人が改めて思い知らされること

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ

ワールド

パレスチナ支持の学生、米地裁判事が保釈命令 「赤狩

ワールド

イラン、欧州3カ国と2日にローマで会談へ 米との核

ワールド

豪総選挙、与党が政権維持の公算 トランプ政策に懸念
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story