コラム

韓国の破産も招きかねない家計債務の実態

2020年01月10日(金)11時10分

但し、最近は韓国銀行が基準金利を引き下げているにも関わらず、金融機関はむしろ貸出金利を引き上げる傾向が強くなっている(2019年第3四半期末の金利は3.83%)。その背景としては金融委員会が家計貸出の急増を防ぐために、家計債務の対前年比増減率を5%以内に抑制する目標を設定したことが挙げられる。金融機関は金利引き下げにより、貸出総額の増減率が政府の目標値を超えないように、加算金利を引き上げたり、優遇金利を縮小しているので、家計に対する貸出金利が上昇しているのである。

家計債務が増加した二つ目の理由としては、貸し出しに対する政府の規制が緩和されたことが挙げられる。政府は2014年に不動産市況活性化のために、個人向け貸し出し「LTV(担保認定比率:住宅を購入するときにその住宅価値のどのぐらいまで銀行から貸してもらえるかの比率=Loan to Value Ratio)」と「DTI(住宅担保貸出に対する元利金返済額が所得に占める比率=Debt to Income Ratio)」という家計貸出の審査基準を緩和した(LTVは全国同一に70%で、首都圏だけに適用するDTIは60%に引き上げた)。

その結果、住宅を購入するときはその住宅価値の70%までの金額を銀行から貸出することが可能となり、所得の60%水準までは借金して不動産を購入することができるようになった。

住宅ローンの基準を厳格化

その結果、家計債務が増え続け、不動産投機によって不動産価格が高騰すると、韓国政府は2017年6月に「6.19不動産対策」を発表し、2017年7月からLTVは既存の70%から60%に、DTIは既存の60%から50%に引き下げ、貸出審査を厳しくした。また、2017年8月には「8.2不動産対策」を発表し、「投機過熱地区」に指定された地域に対してはLTVとDTIの基準を40%に引き下げるなど貸出基準をより強化した。さらに、金融委員会は、DTIには反映されない信用貸出、自動車ローンなどすべての金融圏貸出の元利金返済能力を表す指標である「DSR」を2018年10月から銀行圏(一般銀行、地方銀行、特殊銀行)に導入し始めた。

DSRとはDebt Service Ratioの頭文字で、債務返済額(元利金)が可処分所得に占める比率である。金融委員会は、DSRが70%を超える場合を「高リスク」と分類し、一般銀行の場合、新規貸出金額のうちDSRが70%を超える貸出は全貸出の15%以内、DSRが90%を超える貸出は全貸出の10%以内に制限するように勧告している。さらに、金融委員会は、2021年末までの平均DSRを、一般銀行は40%、地方銀行と特殊銀行は80%以内に下げる方針である。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、4月は49.4 1年4カ

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想下回る 賃金伸び鈍化

ワールド

欧州委、中国EV3社に情報提供不十分と警告 反補助

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story