コラム

チャットGPTには分析不能なウクライナ戦争

2023年06月02日(金)17時40分

プリゴジンはワグネルのバフムート撤退を表明した PRESS SERVICE OF "CONCORD"ーHANDOUTーREUTERS

<表面上見える情報だけを追っても、ロシアやウクライナで本当に起きている真実は見えてこない>

ウクライナ戦争を見ていると、チャットGPTで分析するのはちょっと無理だと思う。チャットGPTは書かれた情報を処理するもの。その「情報」にウソが多ければ、どうしようもないからだ。

例えばバフムートの攻防。それほどの戦略要衝でもないこの街が、連日メディアをにぎわした。それなのにテレビを見ると、いつも同じアパートが白煙を上げている。そして、そこには人影がない。西側などの報道を見ると、ウクライナの将軍たちはここで兵力を消耗するのに反対したが、ゼレンスキー大統領は、西側の支援を確保するにはどこかで戦っている格好を維持しないと駄目だとして、バフムートの戦いを堅持させた、とある。

ロシア軍も動きにくい冬季には、プリゴジン率いるワグネル社の傭兵を前面に立てて戦いを続ける。こうしてウクライナは戦っている格好、西側は助けている格好(あんなに多種多様な兵器を供与しても、部品や弾薬の確保、そして訓練を管理できまい)、ロシアは戦う格好を維持して西側が崩れるのを待つ(自分の足元も崩れてきているが)──これはどこか芝居に似ている。

芝居と言えば、劇作家サミュエル・ベケットによる『ゴドーを待ちながら』を思い出す。ゴドーというまだ見たことのない人物が来ると思い込み、彼のことをあれこれ論じながら延々と待ち続ける人たちを描いた不条理演劇。これは、ウクライナが予告した「5月攻勢」でも言える。どこでどう攻勢が始まるかと待っていたが、5月はもう終わってしまう。

次に待つのは「7月攻勢」か? 要するに「やるやる」「戦っている」と言っていないと西側がすぐ和平交渉を迫ってくる。だからといって、西側の兵器をもらって戦いを続けても、戦況を決定的には変えられない。不条理戦争とでも言うべきか。

双方とも一筋縄ではいかない

不条理と言えば、戦争は自由とか愛国などの奇麗事ばかりでは片付かない。裏で犯罪や汚い利権も野放しになる。例えば、ウクライナを通る石油パイプラインでは、ロシアの原油が今でも欧州へと流れる。ウクライナはその通過料金をせしめるだけでなく、ハンガリーへ原油を送らせ、そこで精製したガソリン、ディーゼルを輸入してロシアとの戦争で使っている。

ところが、ゼレンスキー大統領がこのパイプラインの爆破を下僚に諮問したことがリークされ、怒ったハンガリーは5月中旬、EUの対ウクライナ兵器支援支出(第8回)を止めている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、10日に有志連合首脳会議を主催 仏

ワールド

中国商務相、ロシア経済発展相と会談 経済・貿易を巡

ワールド

ブラジル大統領、トランプ関税を非難 プーチン氏との

ワールド

米中、一時的関税停止の可能性 週末の高官協議=スイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story