コラム

領土は売買できるもの――「トランプ新世」の価値観に対応せよ

2025年03月28日(金)18時00分

北方領土を買い戻す?(国後島、2016年12月) YURI MALTSEV–REUTERS

<グリーンランドやガザの領有を口にするトランプは批判を受けているが、歴史をひもとけば領土の売買・譲渡はよくあったこと>

トランプ米大統領は、これまでのアメリカの公式イデオロギーともいえる自由と民主主義を振り回さない。彼は大衆の利益を守る「アメリカ第1」、そして「MAGA(アメリカを再び偉大に)」を旗印とする。

国際法とかプロトコルとか上品ぶった外交関係にも無知。デンマーク領のグリーンランドでも、イスラエルのパレスチナ自治区ガザでも、ウクライナの原発や鉱山でも、これまで50年余り手がけてきた不動産やデベロッパーのノリで、自分が「引き受け」て安全を確保し、立派に開発してみせると胸を張る。


このトランプを世界の人々は品がないとか、住民の権利を無視していると批判する。しかし歴史をひもとけば、領土の売買・譲渡は頻繁に起きている。アメリカはほかならぬデンマークから現在のバージン諸島を1917年に2500万ドルで購入したし、19世紀初めにもルイジアナ、フロリダなどをフランス、スペインから購入。有名なのはアラスカで、クリミア戦争で窮したロシアから1867年にわずか720万ドルで買収。ロシア人は今でもこれを惜しんでいる。

「主権国家」とその不可侵性が絶対視されるようになったのは、1648年に欧州の30年戦争を終わらせたウェストファリア条約以降の話だ。それ以前、中世ヨーロッパでは領土は王家所有の領地=「不動産」扱いで、王家Aが王家Bに王女を嫁に出すときには、領土を結納として付けてやった。だからフランク王国が分裂した後の西欧地図は虫食い状態になっている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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