コラム

中ロの裏庭に変化あり 中央アジア「共同体」の現実味

2017年11月18日(土)14時40分

キルギス大統領選では日本の電子認証装置が活躍 Nezir Aliyev-Anadolu Agency/GETTY IMAGES

<ロシアや中国の思惑をよそに地域統合に進む中央アジア5カ国。元ウズベキスタン・タジキスタン大使の筆者による驚きの現地最新報告>

11月初旬、中央アジア各国を訪問した。カザフスタンの首都アスタナは吹きさらしの原野に20年前に建設が始まった人工都市だが、今や人口が100万を超え、街の至る所に生活感が出てきた。ウズベキスタンの首都タシケントも首都の構えが整い、経済が離陸中の感がある。

キルギスでは10月15日の大統領選後、これまでのように不正選挙だとの抗議も起きず、街は平静。電子認証装置を日本が供与したこともあり、住民が開票結果を信じたとか。そんな政治的安定とは裏腹に、ハンガーは服を掛ければ分解し、ペットボトルは底がいびつで立たないなど製造業の質はまだ低い。

それでも中央アジアの総人口は約7000万、GDPは総計で3300億ドルと本格的に取り組むべき市場になってきた。

中央アジアは決してロシアの一部ではなく、地場の諸民族が征服者ロシアよりはるかに古い歴史を持つ。イスラム教徒の住民は、正直であれ、隣人を大切に、など当然の行動規範に従っているだけで、テロとは無縁だ。

また中央アジアは周辺の大国に服従してきた弱々しい存在と思われているが、地場の諸民族は独自の歴史や文明に根差す誇りが強い。ソ連崩壊で転がり込んだ独立国家としての地位の下、各国は大国でも侵すことのできないほど確固とした権力・利権構造をつくり上げた。

20世紀初頭にこの地で英ロが覇を競ったようなグレートゲームもあり得ない。アメリカは内陸地に戦略的関心を示さず、中国の関心も経済だけ。ロシアは覇を唱えたくとも経済力を欠く。

長期戦略なき一帯一路

中央アジア諸国に中ロなどが加わる緩い協力体、「上海協力機構(SCO)」がユーラシアを差配するとの見方もある。だがSCOは中ロの合同軍事演習以外、目立った活動がない。ロシア主導でユーラシア版EUを狙ったユーラシア経済連合にも中央アジア5カ国中3国は加盟せず、加盟国間でも規則無視の輸出入制限が絶えない。

中国の「一帯一路」経済圏構想は、中国の諸省庁や企業が予算を分捕るための錦の御旗に使われて、長期的戦略は見えない。中国とヨーロッパを何本かの通商路で結ぶ話も喧伝された割に、実際の建設はおぼつかない。アジアインフラ投資銀行(AIIB)も資金調達のための外債をまだ発行しておらず、中央アジアでの独自案件はまだない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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