コラム

張本勲が「真の男」とたたえた尹錫悦...今後の日韓関係、左右するのは「韓国の国内政治」

2023年06月06日(火)14時30分
尹錫悦

REUTERS/Kim Hong-Ji/Pool

<「これからは韓国もプライドを持って日本と対等に手を取り合い、隣国としてやっていけばいいのではないでしょうか」──張本勲の発言が韓国で大きな話題となっている>

知る人は知るように、筆者の趣味の1つは野球観戦である。最初に韓国に住んでいた頃にも、野球場に足を運んだことがいくどかあった。今からもう30年も前の話になる。

スタンドに座ってすぐ気付いたのは、多くの選手が当時の日本のスター選手と同じ背番号を付けていることだった。捕手の多くは22番を付けており(阪神と西武で活躍した田淵幸一の背番号である)、下手投げ投手には19番を付ける選手もいた(いわゆる「江川事件」で巨人から阪神にトレードされた小林繁の背番号だ)。韓国でプロ野球が生まれて10年と少し、多くの韓国選手の憧れが、いまだに隣国日本のスター選手だった時代の話である。

なかでも圧倒的に目立ったのは「左の強打者」が付ける「背番号10」だった。ロッテの張孝祚(チャン・ヒョジョ)、ピングレの李政勳(イ・ジョンフン)、そして三星の梁埈赫(ヤン・ジュンヒョク)。彼らが範を取ったのは、在日コリアンであり、日本プロ野球の最多安打記録を持つ張本勲(韓国名・張勲〔チャン・フン〕)である。

当時の張本は既に引退し、韓国野球委員会総裁特別補佐を務め、多くの在日コリアンを韓国プロリーグに送り込む活動を行っていた。これら初期の韓国プロ野球のレジェンドたちが活躍した結果、「背番号10」の価値はさらに上昇し、2つの球団では今日永久欠番になっている。日本では永久欠番にならなかった「張本の背番号」は、韓国でレジェンドになったのである。

韓国内政が日韓関係を左右する

そして今、張本の発言が韓国で大きな話題となっている。伝えたのは韓国最大の発行部数を誇る朝鮮日報。G7サミット参加のため広島を訪れた尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領が、日本の岸田首相と共に平和記念公園内の韓国人原爆犠牲者慰霊碑を訪問するのに先立って、張本は「代表的な在日韓国人被爆者」としてインタビューを受けた。しかし議論の的となったのは、被爆の記憶ではなく、彼が付け加えた以下の言葉だった。

「いつまで日本に『謝罪しろ』『金を出せ』と繰り返さなければならないのですか? 恥ずかしいです。当時は弱肉強食の時代で、韓国は弱かったから国を奪われました。絶対あのようにやられてはいけなかったのに......。これからは韓国もプライドを持って日本と対等に手を取り合い、隣国としてやっていけばいいのではないでしょうか」

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中小企業、26年業績改善に楽観的 74%が増収見

ビジネス

米エヌビディア、株価7%変動も 決算発表に市場注目

ビジネス

インフレ・雇用両面に圧力、今後の指標に方向性期待=

ビジネス

米製造業新規受注、8月は前月比1.4%増 予想と一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story