コラム

最大野党(のはず)の英労働党が崩壊寸前

2016年10月06日(木)11時30分

<イギリスの野党・労働党党首にジェレミー・コービンが再選された。しかしコービンはあまりに左翼的で、筋金入りの社会主義者にしか受けず、中間層の心はつかめそうにない>(写真:労働党党首に再選されたコービン)

 イギリスのEU離脱(ブレグジット)の大騒ぎのなか、世界はこの国で起こっている同じくらい重大なできごとに気付いていないんじゃないかと思ってしまう。最大野党・労働党が崩壊寸前なのだ(と、僕には感じられる)。

 目下、イギリスは労働党のニュースでもちきり。9月末に党大会で、ジェレミー・コービンが党首に再選されたからだ。コービンはほんの1年前に初めて党首の座に就いたばかりだが、今回の党首選では仲間の議員たちから対立候補を立てられていた。

 僕にとっての問題は、1年前に彼について書いたコラムに新しい事実を何も加えられそうにないことだ。あのとき僕は、コービンが党をまとめるうえで問題を引き起こしそうだと予測した。実際、次の総選挙での惨敗を恐れる労働党議員たちは、コービン降ろしを試みた。

 僕にものすごい先見の明があった、などと言うつもりはない――当たって当然の予想だった。唯一のサプライズは、その動きがあまりにも早く起きたことだ。労働党はEU残留支持なのに、コービンの残留キャンペーンはあまりにお粗末だったと主張して、労働党の有力議員たちはできるだけ早く彼を排除したがった。

 しかしコービンは不信任案が可決されても辞任を拒否。おまけにコービンの「草の根」の支持層は相変わらず強固だった(今回の党首選でのコービンの得票率は、前回を上回った)。コービンを支持する労働党員たちは大喜びし、今や保守党への「真の対抗馬」が誕生したと信じている。党員数も大幅に増えたとの指摘もある。

 僕が思うに、問題はコービンがあまりに左翼的なこと。彼の主張は筋金入りの社会主義者にしか受けないだろう。イギリスの中間層の心はつかめそうにない。

【参考記事】前進できない野党の憂鬱:コービン労働党首再選

舵を取る方向を誤った

 労働党は純粋な社会運動から生まれたわけではない。社会主義の理想にリップサービスで賛同しただけだった。労働党は『赤旗の歌』を歌い、党員の中に社会主義者がいたのは確かだ(19世紀後半に社会主義運動を掲げて創設された「フェビアン協会」は党の基盤団体の1つ)。

 とはいえ労働党は基本的にはイギリスの労働組合運動から発展した。重要なきっかけになったのは、労働組合にストライキによる損害賠償を言い渡した1901年のタフ・ベール判決だ。このとき労働組合は、政治レベルでの保護が必要だと考えた。そして、「社会と階級闘争のあり方を変える」ためではなく、「多くの労働者の状況を改善させる」ために労働党が結成された。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

習首席が米へのレアアース輸出に合意、トランプ大統領

ビジネス

アングル:中国製電子たばこに関税直撃、米国への輸入

ワールド

日米関税協議、「一致点見いだせていない」と赤沢氏 

ワールド

米中、9日にロンドンで通商協議 トランプ氏が発表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 9
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 10
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story