コラム

EU「離脱」投票がいよいよ迫る

2016年01月07日(木)19時00分

EU離脱の賛否はちょうど同じくらいで分かれている Toby Melville-REUTERS

 スコットランド独立の是非を問う住民投票が実現するなんて、まだまだ遠い未来のことだろう――ついこの間まで、そんなふうに思っていたような気がする。ところがその住民投票は実施されて既に過去となり、今やもう1つの住民投票が遠い未来に見えている。イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票だ。

 この投票は2017年末までに実施されることが確約されているが、すでに現実味を帯び始めているようだ。次の総選挙が行われるより前に実施されるし、「離脱」が多数を占めるようなことになれば、その影響力は政権交代が実現した場合よりも大きなものになるだろう。

「離脱」が勝った場合に起こり得る結果をすべて予測するのは難しい。だから僕は、国民はかろうじて「残留」に投票する可能性が高いように思う。でも投票が行われるまでに、予想が覆されるかもしれないような要素はいくらでも考えられる。

 イギリスのデービッド・キャメロン首相は、EUに残留しつつイギリスにより有利な加盟条件を交渉すると約束している。でもこれまでも個別の加盟国の要求に対して冷酷なほど融通の利かない対応をしてきたEUという超国家的組織から、キャメロンがどうやって大きな譲歩を引き出せるのかは不明だ。

スコットランド独立論も再燃?

 官僚や実業家、政治家などのエリート層に比べて、一般のイギリス国民は反EUに傾いている。だからこそ国民は、権力層がこぞってEU「残留」に全力を挙げてくるだろうと予想している。その権力層には与党・保守党の党首であるキャメロンも含まれるようだ。たとえ彼が、状況次第では自ら「離脱」を呼び掛けますよと声を大にして主張していようと。

 EUはイギリス人の生活のあらゆる側面に影響を与えている。流入する移民の規模、ほかの加盟国との貿易関係、わが国の主権、国家の統一(スコットランド人は、自分たちがEU「残留」を望むにもかかわらずイギリスが「離脱」を選んだ場合は、またもやイギリスからの独立を主張しそうだ)などだ。

 世論調査によれば今のところ、EU離脱の賛否はちょうど同じくらいで分かれている。国民投票がどう転ぶか僕には予想できないけれど、成人後の僕の人生で最も重要な投票になることは間違いないだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、FRBの政治介

ワールド

ウクライナ、和平計画の「修正版」を近く米国に提示へ

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story