コラム

GoToトラベル、実は合理的だったのに...

2022年11月19日(土)15時55分

忘却された「当たり前の前提」

観光業やそれに付随する宿泊、飲食業は、地域経済の要だ。私が新聞記者時代に働いていた岡山県でも、国内観光客の呼び込みに躍起になっていたが、今になってみるとその理由も分かる。観光業は地元の高校生や大学生の雇用の受け皿になっている。観光が活性化しなければ、雇用そのものが失われていく。

岡山での取材先だった高校教諭のコロナ禍を嘆く言葉が忘れられない。教諭の勤務校では、それまでの数年好調だった就職状況が20年以降困難に直面していた。

「前年まで生徒を受け入れてくれたホテルが求人をやめてしまうこともあった。その年の生徒だけが就職が難しくなる。運、不運で切り捨てていいとは思えない。彼らは進学するにもお金がない。路頭に迷う若者を送り出してしまっていいのか......」

政府が直接事業者などに休業補償などをするにも、観光産業での日本人の消費額は、国内旅行(日帰り含む)だけでも約22兆円(「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」19年版)に達する。あまりにも巨大な産業であり、膨大な予算が必要だ。

今年に入っても、観光業活性化は喫緊の課題であることは変わらない。打撃を受けてきたことを踏まえれば、外国人観光客の入国制限緩和も、GoToの後継といえる全国旅行支援も政策としては悪くはないと思う。全ての政策に批判的態度で臨まなくても、時の政権の批判はできる。今が、この当たり前の前提に立ち返るときかもしれない。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部

ビジネス

カタールエナジー、LNG長期契約で日本企業と交渉

ビジネス

アップル、関税で4─6月に9億ドルコスト増 自社株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story