コラム

東京五輪後のレガシーだったはずの共生社会はどこへ?

2023年03月17日(金)18時48分
車いすテニス、東京五輪、オリンピック、パラリンピック、国枝慎吾

パラ五輪は感動を残したが(車いすテニスの表彰式)IVAN ALVARADOーREUTERS

<オリ・パラ開催の「恩恵」となるはずだった多様な人々による「共生社会の実現」は、まるでなかったことのようにされている>

それは決意の記者会見だった。俳優の東ちづるが企画・構成・演出を担当するパフォーマー集団「まぜこぜ一座」の3月5日開演の新作舞台を告知する場は、たった一言で「東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとは何か」を問う場に変わった。「まぜこぜ」の名のとおり、義足のダンサー、全盲のシンガーらマイノリティーの座員が集った会見で彼女は一同を代表してこう言った。

「もともと日本のテレビ界では、障害のあるアーティストやパフォーマーが出演すること自体が少ない。ようやくパラリンピックが終わった後、忙しくなった方も出てきた。でも全てではありません。パラリンピックのレガシーをどうするか、という話を議論できないまま組織委員会は解散してしまった」

レガシーとは「オリンピック・パラリンピック競技大会等の開催により開催都市や開催国が、長期にわたり継承・享受できる、大会の社会的・経済的・文化的恩恵」(東京都のホームページより)を指す。関連経費も含めて2兆3000億円に達するとされる費用を費やしてきたこと、残された競技施設の利用方法などは大きなニュースとして報じられてきたが、それも開催から1年を過ぎる頃にはぱったりと止まった。

変化はわずかにすぎなかった

東はオリ・パラ大会公式文化プログラム「東京2020NIPPONフェスティバル」の一部を手がけてきた。制作総指揮を務めた「共生社会の実現に向けて」をテーマにした映像作品がそれだ。話題となったパラリンピックの開会式に出演したパフォーマーも数多く参加し、内外からの高評価も獲得したが、もともと彼女が大事だと考えていたのは大会後の社会だった。

東京都は当初から、大会後に残るレガシーとして「真の共生社会の実現」といった理念を掲げてきた。この理念に沿った具体的な行動とは、例えば障害の有無にかかわらず、あらゆる人々の活躍の場が充実することや、メディア上での機会の平等が進むことだろう。

パラ関連で活躍したパフォーマーの中には、人気ミュージシャンのバックダンサーとして活躍する人も出てきたが、会見で東が語ったように変化はわずかにすぎない。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story