コラム

ウクライナ侵攻から1年、世界の半分以上はウクライナを支持していない

2023年03月06日(月)13時04分

プーチン大統領は2月21日、ウクライナ侵攻1年を前に年次教書演説を行った Sputnik/Sergei Savostyanov/REUTERS 

<ウクライナ侵攻後1年振り返り、各機関のレポートを読んでみた......>

ウクライナ侵攻から1年ということでデジタル影響工作と関連する複数の機関が振り返りレポートを公開していた。まずは次の地図をご覧いただきたい。軍事力、経済力を持つ国々の多くはウクライナを支持しているが、それ以外の国ではそうではない。人口や国の数ではウクライナ不支持の国の方が多いのだ(行動を起こさないという意味において)。

ichida20230306aa.jpg

日々、ロシア非難とウクライナ支持のニュースに囲まれている日本の多くの人には意外かもしれないが、10以上の専門機関のレポートを読んだ限りでは、ロシアが情報戦で負けたあるいは劣勢であると書いてあったものはなかった。そもそも勝敗に言及していないものがほとんどだが、言及しているものは双方がそれぞれの領域で成功していると分析している。我々が日頃接しているニュースなどの情報がいかに偏っているかがよくわかる。

レポートおよび関連資料や記事まで含めて30以上を読むと大きくデジタル影響工作について3つのことがわかる。

1.ロシアが負けたことを明言している専門機関のレポートはない。TIME誌などメディアの記事では存在する。
2.我々から「見えない領域」でロシアは成功している。
3.デジタル影響工作は幅広い領域と連動、関連している。

ichida20230306bbb.jpg

ロシアとウクライナはそれぞれの領域で成果をあげていた

日本はウクライナ支援国で、アメリカの同盟国である。その情報のほとんどは欧米、グローバルノース主流派、特にアメリカからもたらされる。その範囲ではロシアは劣勢であり、我々の陣営は優勢だ。

逆にロシアは我々の陣営から見えるところにもデジタル影響工作を仕掛けているが、その他にも仕掛けている。その他とは世界人口および国数の圧倒的多数を占めるグローバルノースだ。グローバルサウスに触れているレポートでは、ロシアの影響力が大きいことを認めている。

我々の情報空間にはゼレンスキーが各国でオンライン演説をしたり、支援国の元首がキーウを電撃訪問するニュースが流れてくる。その一方で(日本のニュースではほとんど流れないが)、ロシアのラブロフ外相はアフリカと中東の9カ国を訪問して歓迎された。南アフリカでは、パンドール外相がロシアを「友人」と 呼んだ。南アフリカ海軍はロシア、中国とインド洋で合同演習を行い、インドとロシアの貿易は400%増加した。ロシア発信の(我々から見ればデマ)ニュースはこれらの国で人気がある。

グローバルサウスの態度に関するグローバルノース主流派の勘違いは、ブルッキングス研究所のレポートの次の言葉が象徴している。

ロシアのウクライナ侵攻以来、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、太平洋地域の多様な国々を含む「グローバル・サウス」は、「塀の上に座っている」(傍観)と見られてきた。

しかし実際は単に傍観していたわけではなかった。グローバルサウスにはグローバルノースに対する根深い不信感があったのだ。グローバルノースの国々(特にアメリカ)は自国の都合が他国を非難し、制裁してきた。その勝手なご都合主義に付き合わされるわけにはいかない。今回さまざまな専門機関の1年振り返りレポートを取り上げているが、これ以外にもグローバルサウスとグローバルノース主流派の分断が深まったことを指摘するレポートは多い。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ごみ・汚物風船が韓国に飛来、「北朝鮮が散布」と非難

ワールド

シンガポール航空事故、急激な高度低下が負傷の原因と

ワールド

イスラエル軍戦車部隊、ラファ西部と中心部で攻撃

ビジネス

S&P、インド格付け見通し「ポジティブ」に 財政再
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 10

    「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニュ…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story