アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウンドも国内客も

百貨店の売り上げをけん引してきた高額消費に変調が起きている。写真は松屋の銀座本店。2017年7月、東京で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
(西武池袋本店の店名を修正します)
Kentaro Okasaka
[東京 11日 ロイター] - 百貨店の売り上げをけん引してきた高額消費に変調が起きている。米国発の世界景気の不透明感から、円が上昇してインバウンド(訪日外国客)向けの売上高が急減するとともに、国内客の消費志向にも変化の兆候が見られる。過去の危機を再編で乗り切った各社は、百貨店の源流である「呉服店」のような販促を取り入れながら、新たな環境への適応を模索する。
<ツールはウィーチャット>
東京・銀座に本店を構える松屋は、海外客をどう常連にするかに腐心してきた。中国語に堪能なコンシェルジュチームの担当者らが中国の対話アプリ「微信(ウィーチャット)」を使い、100万円以上の購入履歴がある中国人客とやり取りする。
この時期は屋上ビアガーデンへ招待するメッセージを送るなどしており、銀座本店の服部延弘副店長は「購買力のある海外のお得意様を増やす」と話す。
松屋の戦略は功を奏し、売上高に占める訪日客(免税売上高)の割合は2025年2月期に約47%まで拡大した。38年ぶりに160円台まで進んだ円安を背景に免税売上高は過去最高を更新、全体の業績を押し上げた。
しかし、同社が11日に発表した25年3─5月期(第1四半期)の連結営業利益は4億8700万円と、前年同期から57.1%減少した。政策を予見しにくいトランプ政権の誕生以降、ドルが売られて円が140円台まで上昇。訪日客は割高になった高額品を避け、単価の低い化粧品などの消耗品を買うようになった。
日本百貨店協会によると、円安で昨年活況を呈した業界の免税売上高は今年2月以降、4カ月連続で前年を割っている。政府推計では、5月の訪日外国人数は369万人と過去最多だったが、百貨店での購買客数は38カ月ぶりに前年を下回った。
高島屋が6月末に発表した3─5月期の連結営業利益は126億円と、前年同期比同26.9%減少した。26年2月期の連結予想を前年比13%減の500億円へ下方修正した。
高島屋の広報は「若干円高に振れた為替の影響や、ラグジュアリーブランドなどの買い物が一巡したことでラグジュアリー以外のものに移ったり、そもそも物よりコト(体験)に移ったりしていることが考えられる」と訪日客の消費行動が変化した背景を分析する。
インバウンドが収益の柱の1つになった百貨店各社は、風向きが変わる中で利便性の向上に取り組む。松屋は昨年11月、来日前にインターネットで免税手続きをほぼ済ませ、来店後の所要時間を短縮できるサービスを導入した。館内には高額購入した海外顧客用のラウンジやイスラム教徒の礼拝スペースを設置している。
高島屋も昨年12月からシンガポール店のVIP顧客1500人を対象に、来日時に店舗で並ばず免税手続きができるファストパスや買い物への通訳同行サービスが受けられるカードの提供を始めた。上海やホーチミン、タイ・サイアムにも広げる。三越伊勢丹ホールディングスは3月から海外顧客向けアプリのサービスを開始し、イベント情報や割引クーポンの配信を行う。
<シナジー効果>
とはいえ、インバウンドは風頼みの要素が多い。コロナ禍では来日自体が困難になった。為替レートの変動による売り上げの振れ幅も大きく、各社は国内顧客の基盤強化、特に今も好調な売り上げが続く高額品の販売に力を入れている。
日銀が10日発表した地域経済報告(さくらリポート)は「国内富裕層の消費意欲は堅調」「富裕層を中心に金などの宝飾品の需要が高まっている」といった百貨店の声を取り上げた。
日本総研リサーチ・コンサルティング部門の齊木乃里子シニアマネジャーは「高額消費を支えるのは、給与所得だけではなく金融資産や不動産資産、それに対する運用などに着手している層が大きい」と語り、最近の株高が富裕層の消費を押し上げている面もあるとみる。
三越伊勢丹HDは、一般大衆が訪れる受け身の「館(やかた)業」から、個人を識別してニーズに合わせた提案を行う「個客業」への転換を掲げる。いわば創業当時の呉服店のようなイメージだ。既にアプリや自社カードを通じて識別した顧客は700万人を超え、伊勢丹新宿本店や三越日本橋本店では売り上げの70%が「識別顧客」という。
百貨店ならではの販売スタイルである外商の「人の力」も重視する。購買データ分析や人工知能(AI)の活用で、独自の外商営業支援ツールを開発。経験が浅いセールス要員でも短時間でベテランに近いパフォーマンスを実現できるよう工夫を凝らす。
第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、「売るだけではなくコンシェルジュのようなプラスアルファの付加価値サービスで営業するとか、富裕層向けの外商といったところをしっかりとやってくということではないか」と指摘する。
高島屋は人気番組とタイアップした催事で新規顧客の取り込みを図る。一方、昨年6月には富裕層らが保有する資産を管理する独立系ファイナンシャル・アドバイザー会社を買収。百貨店ビジネスとのシナジー(相乗効果)を狙う。
<サンダルよりスニーカー>
ただ、国内顧客の消費にも変化が見られる。日本百貨店協会は4月の売上高概況に「ラグジュアリーブランドのバッグや靴がインバウンドや富裕層の慎重な購入姿勢から苦戦した」と盛り込んだ。4月にトランプ大統領が相互関税を大々的に発表し、金融市場が大きく変動したタイミングと重なる。
三越伊勢丹ではサンダルの動きが鈍い一方、シーズンに関係なく履けるスニーカーの売り上げが婦人・紳士用ともに前年を超えている。衣料品でも1シーズンではなく2シーズン着られる商品が好調で、秋物は今から着られる商品が人気だ。こうした変化は、実質賃金の伸びが物価上昇に追い付かない状況も影響している可能性があるという。
齊木氏は「家計消費支出は伸び悩み、1円単位でセンシティブになっている家庭はどんどん増えている」とし、こうした層も取り込むにはポイントを貯められる仕組みや、催事など特別な仕掛けで客に訴求できるかが鍵になると語る。
東京・池袋では8日、西武池袋本店が改装工事を経て化粧品フロアを先行オープンした。家電量販店ヨドバシカメラと共存するため、面積が狭まる百貨店は化粧品や高級ブランド、食料品に絞る。
「百貨を扱う百貨店ではない、新しい百貨店を目指していきたい」と寺岡泰博店長。「(特定の分野で圧倒的な強さを持つ)カテゴリーキラーとして他を凌駕(りょうが)する圧倒的なスケールで磨きをかける」と力を込めた。
(岡坂健太郎 編集:久保信博)
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