コラム

「現実的に期待できる最高の成果」だった、G7広島サミットの首脳宣言

2023年05月31日(水)15時52分
原爆ドーム

原爆ドームのある平和記念公園を訪れたG7首脳(5月19日) BRENDAN SMIALOWSKI–POOL–REUTERS

<冷戦期の「相互確証破壊」に逆戻りした今、理想だけではなく「現実的で、実践的な、責任ある」アプローチが必要>

反核活動家は政治指導者に核兵器廃絶を迫るとき、常に道徳的優位に立っているように見える。

広島・長崎の被爆者でも、この問題に懸念を抱く世界各地の市民でも同じだ。広島で被爆したサーロー節子は広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)を「大きな失敗」と非難した。

まともな人間なら全員、核兵器がもたらす実存的脅威を恐れないはずがない。誰かが衝動的にボタンを押すだけで、30分後には何億、何十億もの人々を死に追いやる可能性がある。

まして一部の指導者や国家は、核兵器抜きでも大量虐殺に手を染め、それを美化してきた過去がある。ロシア、ドイツ、トルコ、ルワンダ、アメリカ、日本、カンボジア、中国......。近現代の歴史は血にまみれている。

だが残念ながら、道徳は人間や国家の行動を規定する力としては決して大きくない。個人や国家を動かす力、特に脅威を感じたときの原動力は、恐怖、名誉、利益だ。

人類の歴史を通じて、弱肉強食を否定する真の平和が訪れたことはなく、国家は常に自国を第一に考える。

そのため、核保有国は人類存亡の危機をもたらす核兵器を持ち続け、一部の非核保有国は目の前の恐怖を和らげ、見せかけの名誉を高め、想像上の利益を増やすために核兵器の開発に向かう。

それを考えれば、「全ての者にとっての安全が損なわれない形で、核兵器のない世界」を目指し、「軍縮と不拡散の重要性」を再確認した広島サミットの首脳宣言は、現実的に期待できる最高の成果だった。

キッシンジャー元国務長官、ペリー元国防長官などアメリカの核兵器と外交の専門家は2007年頃までに、核兵器は大国間の戦争抑止力としてもはや有効ではないと結論付けた。

それでも国際秩序が多極化し、大国間の緊張が高まっている今、核による地球規模の大量殺戮の危険性は増している。

アメリカの核戦略担当者は、即時廃絶は不可能だが、核物質の適切な管理、核兵器の削減、核保有国間の情報共有など、段階的な対策が破滅のリスクを減らし、核なき世界の実現に近づけられると考えた。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、中国合弁工場で900人削減 EV急拡大で主

ワールド

米下院、詐欺で起訴の共和サントス議員を除名 史上6

ワールド

米連邦地裁、トランプ氏の免責主張認めず 20年大統

ビジネス

米EV税優遇策、中国産材料を制限へ 24年から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
2023年12月 5日号(11/28発売)

インフレが迫り、貯蓄だけでもう資産は守れない。「投資新時代」のサバイバル術

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 2

    バミューダトライアングルに「興味あったわけじゃない」が、予想外の大発見をしてしまった男の手記

  • 3

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 4

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 5

    世界でもヒット、話題の『アイドル』をYOASOBIが語る

  • 6

    「ダイアナ妃ファッション」をコピーするように言わ…

  • 7

    ロシア兵に狙われた味方兵士を救った、ウクライナ「…

  • 8

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 9

    「赤ちゃんの首が...」パリス・ヒルトン、息子を「抱…

  • 10

    土星の環が消失?「天体の不思議」土星の素敵な環を…

  • 1

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 2

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 3

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深い意味

  • 4

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 5

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 6

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中…

  • 7

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 8

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャ…

  • 9

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 10

    1日平均1万3000人? 中国北部で「子供の肺炎」急増の…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される

  • 4

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイ…

  • 5

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 6

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 7

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 8

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 9

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

  • 10

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story