コラム

遠藤誉から、大陸へのメッセージ

2016年10月04日(火)13時41分

Satoko Kogure

<先月20日、ワシントンで「中国共産党、歴史との闘い」と題するシンポジウムが開催された。筑波大学名誉教授で中国に関する著書を多数もつ遠藤誉が登壇し、「毛沢東が日本軍と共謀していたという事実」について発表、「中国こそ正しい歴史と向き合うべき」と訴えた> (写真:米ワシントンのナショナル・プレス・クラブで講演する遠藤)

 シンポジウムが行われたのは、ホワイトハウスからほど近い「ナショナル・プレス・クラブ」、日本で言うところの「日本記者クラブ」だ。在米中国研究者やメディアを前に、遠藤はこう主張した。現在の習近平政権が強硬な対日政策を執るなか、習の基盤である中国共産党と「建国の父」と言われる毛沢東は、実は日本軍と共謀することで中華人民共和国を築き上げた――。

 講演は近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)に基づいた内容で、その中国語版は今年6月にアメリカでも発売されている。中国生まれの遠藤は84年の著書『チャーズ――出口なき大地』で自身のルーツと向き合いながら中国建国の闇に光を当て、話題を呼んだ。その遠藤が、今度は「毛沢東と中国共産党の虚構」を暴き、中国の人たちに伝えようとしている。遠藤がそこまでして大陸にメッセージを送るのは何故なのか。講演翌日、本誌・小暮聡子がワシントンで話を聞いた。

dc02.jpg
ワシントンに駐在する世界中のジャーナリストが集まるナショナル・プレス・クラブ Satoko Kogure

――今回、ワシントンで講演した目的は

 今、中国の習近平政権は日中戦争では中国共産党こそが日本軍と勇猛果敢に戦ったと盛んに言っている。ところが中国共産党は実際には、抗日戦争で日本軍と戦ったどころかむしろ共謀していた。日中の「共謀」というよりは中国のスパイが日本側の外務省に接近し、蒋介石率いる国民党側の軍事情報を日本軍に高値で売りつけていた。そうやって国民党を弱体化させ、その暁には中国共産党、つまり毛沢東が天下を取ると。この目的のために、毛沢東は日本軍に停戦まで申し込んでいた。

【参考記事】毛沢東は日本軍と共謀していた――中共スパイ相関図

 毛沢東は戦後、「抗日戦争勝利記念日」というのを祝ったことがない。それは、自分が戦って勝ち取ったものではないと思っているからだ。毛沢東にとっての最大の敵は、国民党の蒋介石だった。日本軍と手を結ぼうと何をしようと、とにかく国民党軍をやっつけて自分が天下を取ることしか考えていなかった。毛沢東とは、そういうことをやった人物だった。

【参考記事】毛沢東は抗日戦勝記念を祝ったことがない
【参考記事】毛沢東は「南京大虐殺」を避けてきた

 だから、現在の中国共産党には対日強硬策などを言う資格はないと、私は思っている。中国は自分たちの歴史こそ直視すべきだ。そうすれば激しい対日強硬策には向かわないだろうし、日本でも反中感情が生まれたりしなくてすむ。虚構のなかで情報戦をやったり覇権を狙ったり、人民をだましたり言論弾圧をしたりということはすべきではない。日本に対してこんなにも強硬に歴史カードを突きつけてくるのであれば、自分たちの真実を見ましょうと。

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダが24年ぶり「プレリュード」投入、登録車と軽

ワールド

北朝鮮、朝ロ会談後の部屋を入念に拭き取り 金正恩氏

ワールド

中国、米国の光ファイバーの一部に関税 最大78.2

ビジネス

トランプ氏の息子2人、アメリカン・ビットコイン株上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story