コラム

メートルやキログラムが「普遍的な基準」になった日...7つのキーワードで学ぶ「メートル条約締結150周年と基本単位」

2025年05月20日(火)20時55分

2.メートル条約に至るまでにどんな歴史があったか

計量単位は、時代や国、地域によって長らくバラバラだった。たとえばフランスは1789年のフランス革命当時、世界の科学の中心地だったが、800種もの単位が混在してパリとボルドーでは同じ単位を使っても示す量が異なるといった状況だった。

普遍的な基準がないため計量を悪用する詐欺が横行し、国際交流が進むにつれ不具合が目立つようになっていた。そこで共和政府は1790年、「一つの法、一つの重量、一つの度量」をフランス国民に約束した。


科学者たちは「長さ、質量、体積などの単位は、互いに関連付けられているべきである」と考え、10進法を元にした単位系を提唱した。フランスは新たな基準を「北極と赤道との間の子午線の弧の1000万分の1」の1メートル、「水1リットルの重さ」の1キログラムとして、1799年に独自の原器を作成した。

19世紀になってメートル法を採用する国が増える中、原器の消耗や国際統一が問題となり、1875年にパリで国際会議が行われることになった。そこで「メートル条約」が締結され、計量単位をメートル法に統一することや新たな国際原器の作成が取り決められた。

3.国際メートル原器、国際キログラム原器とは?

現在使われている国際原器は、1889年に開催された初めての国際度量衡総会で、当時の加盟18カ国の承認のもとに制定された。後に加盟国には各国の「1メートル」「1キログラム」の基準とするためのメートル原器、キログラム原器が配られた。日本は1890年にメートル原器No.22、キログラム原器No.6を受け取った。

原器は白金90%、イリジウム10%の合金で作られている。ただし、人工物は表面吸収や使用による摩耗でどうしても経年変化してしまうことから、1メートルは1983年に真空中の光の速さ、1キログラムは2019年にプランク定数という物理定数を基準に定義し直された。

なお、日本のメートル原器とキログラム原器は、2012年に重要文化財に指定されている。保管する産業技術総合研究所(産総研)計量標準総合センターによると、メートル原器については近い将来に一般公開できるよう検討中であるという。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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