コラム

メートルやキログラムが「普遍的な基準」になった日...7つのキーワードで学ぶ「メートル条約締結150周年と基本単位」

2025年05月20日(火)20時55分

newsweekjp_20250520093809.jpg

産総研計量標準総合センターが保管するメートル原器と尺原器 筆者撮影

4.日本での単位の変遷は?

他国同様、場所や時代によって長さや重さの定義がまちまちであった状態が長らく続いたが、メートル条約が締結された(日本はまだ加盟していない)1875年に、「尺貫法」を基準とする「度量衡取締条例」が公布された。

この条例は、長さ(度)、体積(量)、質量(衡)について基準を定め、それまで地域によってバラバラだった単位を日本国内で統一しようとしたもので、その10年後の1885年に日本はメートル条約に正式加盟して国際的な計測の枠組みに加わることとなった。


とはいえ一般には、着物の寸法に尺(1尺は約30センチ)、田畑や山林の面積に町や反(1町=10反、1反は約992平方メートル)、米や酒の容量に升(1升は約1.8リットル)、体重に貫(1貫は約3.75キログラム)などが使い続けられていた。

戦後、計量法により、1958年12月31日限り(土地と建物の計量については66年3月31日限り)で取引や証明に尺貫法を用いることが禁止され、日本はメートル法に完全移行することとなった。

5.なぜ産総研がメートル原器、キログラム原器を保管しているの?

1903年に農商務省の中央度量衡器検定所が発足。メートル原器、キログラム原器を管理・保管することになった。その後、所管や名称の変更を経て、61年に通商産業省工業技術院計量研究所となり、80年に現在の茨城県つくば市へ移転。2001年に産総研に統合された。

この間、原器と計量標準に関する研究と業務は引き継がれていき、現在は産総研計量標準総合センターが担っている。原器は「宝物」であるため、第二次世界大戦中は中央気象台柿岡地磁気測定所(茨城県石岡市)に疎開したこともある。

産総研計量標準総合センターは計量研究所だけでなく、かつて計量教習所や電子技術総合研究所標準部、物質工学工業技術研究所標準部も統合した機関で、「日本の計量界の総本山」の役割を果たしている。

newsweekjp_20250520094732.jpg

キログラム原器が保管された金庫内の様子 筆者撮影

日本の原器管理の優秀さを表すエピソードのひとつとして、約40年ごとに行われる「キログラム原器の定期校正」で質量変動が他国と比べて非常に小さいことが挙げられる。

そのためにはキログラム原器用の金庫内の湿度調整が重要であるが、日本では内壁に桐を使うといった工夫をこらしてきた。現在はさらに金庫内全体に乾燥空気を循環させることで、湿度をほぼ0%に制御することができている。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story