コラム

食塩には甘味も隠されている? 「塩化物イオン」の役割と塩の味にまつわる多様な研究

2023年03月28日(火)13時00分

ウォルク氏は「(副成分の)ミネラル分が味に与える影響」に対しても、「たとえミネラルウォーターの味の違いが分かったとしても、料理の塩味は希釈されるので、(副成分のミネラルの)微妙な風味の違いが影響を与えることはない」と説明しています。

さらに日本の研究でも、塩の種類による味の評価をした論文があります。『調理科学』に78年に掲載された「各種食塩の調理に及ぼす影響」(松本仲子氏他)では、「食塩(塩化ナトリウム99%以上、粒度500~149ミクロン80%以上)」「精製塩(同99%以上、塩基性炭酸マグネシウム0.15%、粒度500~177ミクロン85%以上)」「並塩(同95%以上)」「漬物塩(同95%以上、ミネラルやリンゴ酸やクエン酸を添加)」「赤穂の天塩(同95.15%、塩化マグネシウムが1.566%と豊富)」を選び、料理に使用して7~18人で色や味や食感の比較をしましたが有意な差は出ませんでした。

はたして塩の味は、料理に含まれてしまえば何を使っても同じなのでしょうか。日本人の繊細な舌ならば、今の科学では解明されていないわずかな味の違いも見分けられるような気もします。味覚の分子化学的な研究が進めば、他の動物と比べて複雑なヒトの味覚や民族による差異なども分かり、さらに興味深い研究成果が得られるかもしれませんね。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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