コラム

「遊戯王」作者の事故死に見る、マリンレジャーに潜む危険

2022年07月19日(火)11時30分

溺死した高橋さんは、レンタカーが見つかった万座毛近くの海岸で沖に流され、陸に戻ることができずに発見現場まで流されたと考えられています。万座毛付近は、海中の地形が複雑で潮の流れが速く「離岸流」が発生しやすい危険なエリアと知られています。

離岸流とは、海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとする時に発生する強い流れのことです。海岸の地形や構造などに影響されますが、幅は10~30メートルほどで、岸から沖に向かう長さは数10~数100メートルです。流速は、毎秒2メートル(時速7.2キロメートル)に達することもあります。

離岸流が発生しやすいのは、①人工の構造物がある、②河口付近、③波が直角に近い角度で入ってくる、④外洋に面している、⑤遠浅で海岸線が長い、などの特徴を備えた海岸です。とくに①や②は絶好の釣りのスポット、⑤は人気のある海水浴場の条件でもあるため、「立入禁止」や「遊泳禁止」の看板に注意する必要があります。また、サーファーは離岸流を利用して沖に向かうことがあるため、サーファーの多い海岸は海水浴には適さない場合もあります。

海上保安庁は、13~17年に全国の海水浴中の事故のうち、離岸流が原因と思われるものの統計を取りました。事故者の総計1452人のうち、234人(16%)が離岸流に巻き込まれたものと推定されました。

離岸流に遭遇した時は、比較的幅が狭いため、岸と平行方向に泳ぐと抜け出せる可能性が高まります。焦って岸を目指して泳ぐと、流れとは逆方向になり体力が奪われて危険です。泳ぎに自信のない人は浮くことに専念して救助を待つほうがいいと、海上保安庁は伝えます。

サーファー、釣り人は落雷の標的になりやすい

島根県出雲市では3日午後、沖合の岩場で落雷による死亡事故がありました。死亡した男性は渡船で岩場に渡り、1人で釣りをしていました。事故当時、出雲地区の天候は曇りでしたが雷注意報が出ていました。

雷は、雨を伴わなかったり遠くで鳴っていたりしていても、予兆なく近くに落ちることがあります。「電気を通しやすいか」よりも「高低差」が重要で、高い建物が何もない海上では、船やサーファー、釣り人が落雷の標的になります。釣り竿は、長くて導電性の高いカーボン製のものが多く、特に雷が落ちやすいと考えられています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクGの1―3月期純利益2310億円、2四

ワールド

アングル:ドイツで政治家標的の暴行事件急増、背景に

ビジネス

お知らせー重複記事を削除します

ビジネス

UBSのAT1債、50億ドル相当が株式転換可能に 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story