コラム

「白鵬は、もう相撲に関わらないほうがいい」...モンゴル人力士への「差別」が他人事ではない理由とは?

2025年06月09日(月)12時10分
白鵬

幕内優勝45回、幕内通算1093勝という圧倒的な成績を収めた白鵬だったが KOICHI KAMOSHIDA/GETTY IMAGES

<品格、伝統、神事...? 偉大な成績を残しながら、相撲協会を去る名横綱・白鵬よ、モンゴルの広い草原に帰れ>

白鵬が日本相撲協会を退職するとの報に接し、もう相撲は見ないことに決めた。実は2010年春に横綱朝青龍が引退してから、私は相撲と距離を取るようになった。

それまでは日本にいようと、モンゴル国で調査していようと、夕方5時前になるとみんなと一緒にどこかでテレビ中継に夢中になっていた。


その時間になると、首都ウランバートルでは車の流れも止まった。モンゴル出身力士のしこ名も、草原の遊牧民は私よりも詳しく把握していた。

朝青龍不在となった後も、白鵬が先頭に立って奮闘しているのを見て、ひそかに応援の拍手を送っていた。19年4月の静岡場所では直接、けがや批判に苦しむ姿も目撃した。

私も私の分野、つまり学界で朝青龍や白鵬と同じような経験をしてきた。

白鵬の国の南にある中国内モンゴル自治区から私が日本に留学したのは、天安門事件が起きた1989年春。博士の学位を94年に取得し、日本の学界への「幕入り」を果たした。その後、モンゴル人の視点で中国政府に批判的な著作を09年に出版し、10年にある文学賞を受賞した。

しかし「出る杭は打たれる」かのごとく、所属する学会の複数の友人からの温かい祝意と同時に、「旧帝大への道を閉ざされた」と言われた。「学界の大関」になれても、「横綱」にはなれないということだ。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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