コラム

こびる習近平をプーチンは冷笑? 中国・ロシア「対米共同戦線」の同床異夢

2019年06月18日(火)15時00分

サンクトペテルブルク大学名誉博士号を授与される習近平 DMITRI LOVETSKYーPOOLーREUTERS

<名誉博士号と通信技術の交換で首脳同士は親密化するが、中国の経済進出と環境破壊にロシア市民は我慢も限界>

6月28~29日に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議を前に、中国とロシアが対米共同戦線の動きを強めている。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が6月5~7日にロシアを訪問した。プーチン大統領は首都モスクワのクレムリン宮殿で習を歓迎した後、そろってサンクトペテルブルク入りした。

習は13年3月の国家主席就任直後から「私たちは性格が似ている」とプーチンにこびた末、15年5月に両国は「全面的戦略協力パートナーシップ」を宣言。今回の会談ではパートナーシップの発展をうたった。

16年のG20杭州サミット時に、基調演説で漢字を読み間違い失笑を買った習と、元KGB(国家保安委員会)要員でドイツ語が流暢なプーチン。ロシアは「似ているわけがない」と冷笑しながらも、国益から「老朋友(旧友)」をもてなしたのだろう。

2人はサンクトペテルブルクに保存されている巡洋艦アウロラに乗船した。1917年のロシア革命は同艦による帝都の冬宮砲撃で始まった。習はこの由緒あるアウロラを「中国人民にとって特別な意味がある」と激賞。「革命の号砲がマルクス主義を中国に届け、中国共産党が誕生した」と、ロシアとの特別な政治関係を強調した。

バイカル湖の聖水に触手

さらにプーチンは習に母校サンクトペテルブルク大学の名誉博士号を授与させた。4月に習の母校・清華大学がプーチンに名誉博士号を授与したことに対する返礼だ。授与式で習は、互いの母校の優秀さを強調し、両大学がそれぞれの国家元首に名誉博士号を授与したことは、「両国関係が高いレベルにあることを表している」と、喜びを語った。中国当局は早速、習の名誉博士号授与であたかも「中華民族」の地位も上がったかのように国内向けに宣伝している。

中国がロシアに熱い視線を注いでいるのに対し、プーチンの膝元のロシア社会は中国が好きになれない。市場で売られている中国製品は相変わらず粗悪品ばかりで、市民の多くは「ロシア人は収入が低いとみられてバカにされている」と捉えている。

特にロシア人が我慢できないのが環境破壊だ。シベリアの森林を伐採しては木材を次々と中国へ運ぶ。伐採後、凍土層は日照りを受けて砂漠化し、その面積は日ごとに増えている。シベリアの水がめとされるバイカル湖にも中国の触手が伸びてきた。「北極と永久凍土層からの聖水」と宣伝して売ろうとする中国企業に反対運動が発生。工場建設の違法性をめぐって争いが起きている。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story