コラム

米中対立の激化とともに過熱する、台湾総統選=米中代理戦争

2019年05月21日(火)16時30分

国民党の韓国瑜候補が総統選の目玉となるか TYRONE SIUーREUTERS

<来年1月の選挙をにらみ日本行脚にトランプ詣で、蔡英文総統までパジャマ姿でアピール......と早くも白熱中>

5月上旬に筆者は台湾を旅し、来年1月に実施される総統選挙の前哨戦とも呼ぶべき、各党の候補予備選に向けた動きを1週間ほど観察してきた。

台北到着直後の5月10日、トランプ米大統領が2000億ドル相当の中国製品に対する制裁関税を25%に引き上げることを発表。その一報が入ると、各候補もいち早く反応していた。候補者にとって、アメリカや中国との関係にいかに対処するかは、台湾の生き残りを図る上で重要な試金石となっている。

まず、与党・民進党陣営を見てみよう。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は就任後に矢継ぎ早に年金改革などを強力に進めたことで、あらゆる階層の利益を害した。また執務室に閉じこもりがちだったことなどから、蔡の人気は陰りを見せている。

もはや蔡では勝てない、とみた民進党内のエリートの1人、頼清徳(ライ・チントー)前行政院長(首相)が早々に出馬を表明したのを受けて、蔡も積極的に若者層とのコミュニケーションを取り始めた。パジャマ姿で語り掛ける映像を公開して庶民に親しみやすい印象をアピールすると同時に、「か弱く見える」自身こそがこわもての独裁者・中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に対抗できる「民主主義のシンボルだ」と言わんとしている。

シャープの次は国家経営?

一方、ライバルの頼は5月8~12日に日本を訪問して、独自の人脈を誇示した。野田佳彦、森喜朗、海部俊樹各元首相を含む自民党など国会議員30人以上と面会した。頼は日本メディアとのインタビューで、「中国による統一攻勢が強化され、台湾の主権と民主主義は危機的な状況にある」との見解を示した。そして、野党・国民党が意欲を見せている中国との融和的姿勢について、「台湾と中国との平和協定締結は大きな災難をもたらす」と批判した。

民進党の「内紛」を有効に利用したい国民党は候補を絞り込む動きを加速している。党内外で最も高い人気を誇っているのは昨年12月に台湾第2の都市・高雄市長に当選した韓国瑜(ハン・クオユィ)だ。韓は中国から亡命してきた国民党軍人の2世、いわゆる外省人。選挙活動を経済の面で支えているのも、国民党系の退役軍人たちだ。

独立志向が強く、民進党の牙城だった高雄に落下傘候補として臨んだにもかかわらず、「大いに儲けて、すぐに豊かになろう」とのスローガンを公約に掲げて当選。国を問わずシンプルなスローガンこそ、選挙民の心に響きやすい。韓は民進党候補に大差をつけて勝利した。

韓をそのまま総統選候補に横滑りさせようとしていた矢先に、日本の家電大手シャープを買収した大富豪で剛腕経営者の郭台銘(クオ・タイミン、英語名:テリー・ゴウ)が国民党からの立候補を表明。世界的な大企業フォックスコン(鴻海科技集団)を率いている以上、「国家」も経営できるのでは、と各界から期待の声が上がっている。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

感謝祭当日オンライン売上高約64億ドル、AI活用急

ワールド

ドイツ首相、ガソリン車などの販売禁止の緩和を要請 

ワールド

米印貿易協定「合意に近い」、インド高官が年内締結に

ワールド

ロシア、ワッツアップの全面遮断警告 法律順守しなけ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story