コラム

「ブドウの郷」で現代日本の「ありのままの日常」に出会う

2019年07月10日(水)17時30分
「ブドウの郷」で現代日本の「ありのままの日常」に出会う

撮影:内村コースケ

第10回 甲斐大和駅→勝沼ぶどう郷駅→塩山駅
<平成が終わった2019年から東京オリンピックが開催される2020年にかけて、日本は変革期を迎える。令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

◆ぶどうの郷を目指して

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「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより


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これまでの9回で歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より


この旅は、1日15kmほど歩く日帰り旅をつなぐリレー形式の日本横断旅行である。前回は山道を歩いて笹子峠を越え、国中地方と呼ばれる山梨県西部に入り、甲府盆地を見下ろす山裾にある甲斐大和駅でゴールした。前回も参加してくれた高校の同級生で元山岳部のヤマダくんらと同駅で待ち合わせ、旅を再開させた。

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『日本横断徒歩の旅』はリレー形式の旅。前回ゴール地点の甲斐大和駅で同行者と待ち合わせ、旅を再開した

スタート地点の東京湾岸からこれまでは、ほぼ甲州街道(国道20号)・中央自動車道・JR中央本線に沿って西進してきたが、この先の勝沼IC手前で、甲州街道・中央自動車道と、JRの線路は一旦別方向に向かう。道路の方が直線的に甲府市中心部へ向かっていくが、僕たちは甲府盆地を囲む山裾に沿って迂回ぎみに進む線路の方を目安に歩くことにした。

甲斐大和駅の次の「勝沼ぶどう郷」という駅名でも分かる通り、山側ルートは日本最大のブドウの産地を通過する。そんな個性が際立った地域を見過ごすわけにはいかない。勝沼の先も、塩山、山梨市と、ブドウの他にも桃やサクランボといった果樹栽培が盛んな地域が続く。甲府の中心部までは、果樹園の間の小道を進むような、ロマンチックな歩きも良いのではと思ったのだ(今回は愚直な男ばかりのメンツになってしまったが)。

そんなわけで、まずは国道20号に出て勝沼IC手前の分岐点を目指す。国道から見て北側にJRの線路、南に日川の渓谷、その対岸に中央自動車道が平行に走る地形だ。この日は梅雨真っ盛りだったが、運よく雨雲の間に当たったらしく、ほとんど降られることなく、時折晴れ間も覗いた。

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甲斐大和駅を出て国道20号を歩く。眼下に日川の渓谷。中央自動車道が並行して走る

◆日本の日常に目を向ける旅

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中央自動車道沿いの小道。こうした裏道に出会えるのは徒歩の旅ならでは

僕は車の運転も鉄道旅行も好きだが、乗り物で高速移動していると、どうしても点と点を結ぶ旅になってしまいがちだ。リード文にも書いているが、変革期にある今の日本のリアルな姿を描き出すのがこの連載の目的だ。そのためには、珍しい場所や美しい場所の間にある凡庸で退屈な中間地点も含めて、この国を愚直に観察し続けなければいけない。だから、線で移動することそのものに意味がある。それも、徒歩よりも早いスピードで端折ってしまえば、日常のディティールの多くを見落としてしまうだろう。愚直に歩き続けているのには、そんなはっきりとした理由があるのだ。

一般的には、ニュース報道は珍しい出来事や特別な事件を追い、社会派のジャーナリストは時代を浮き彫りにする象徴的な人物や事象を取材する。一方、その狭間にある日常には、なかなかスポットが当てられない。僕は元来の天の邪鬼な性格も手伝って、ライフワークにしている街頭スナップ写真でも、「祭り」「絶景」「美女」といった"ハレ"の要素がある被写体よりも、見落としがちな"ケ"の要素にレンズを向ける。ジャーナリストの本分が現実を認知し、それをできるだけありのままに、それでいて分かりやすく人々に伝えることであるとすれば、その中に日常に目を向ける者がいてもいいだろう。

この歩き旅でも、"ハレ"の表通りを外れて、マイナーな裏道に逸れることが多い。今回も、途中で日川にかかる橋を渡り、国道を離れてみた。その先の高速道路沿いに、軽トラックが1台ようやく通れるような草むした裏道があった。地図にも載っていない、徒歩で探索しなければなかなか見つけられない道だ。そんな忘れられた空間もまた、日常の断片であり、「今の日本」の現実の一部なのだ。

※「ハレとケ」・・・民俗学者・柳田國男が見出した日本人の伝統的な世界観。ハレ(晴れ)は年中行事などの非日常(「晴れ舞台」「晴れ着」など)を表し、ケ(褻)は、日常を表す。

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中央自動車道沿いの小道の途中にあった高速をまたぐ陸橋からの眺め

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。

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