コラム

中国「愛国ビジネス」暴走、日本人襲撃...中国政府は止められないのか

2024年09月23日(月)11時00分
周来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
深圳の日本人学校

男児が襲撃された事件の後、深圳の日本人学校には花束がたむけられた DAVID KIRTON-REUTERS

<深圳で日本人学校の男子児童が中国人の男に刃物で襲われて亡くなった。その背景には、愛国・反日教育が生み出した「迷惑系ユーチューバー」たちの存在がある>

このコラムを執筆中にいたたまれないニュースが飛び込んできた。9月18日、中国南部の広東省深圳で日本人学校の男子児童が中国人の男に刃物で襲われ、19日未明に病院で亡くなったのだ。

現時点ではまだ容疑者の動機も事件の背景も分からない。だが、恐れていたことが起きてしまったような気がした。

今回書こうとしていたのは、動画配信者たちの暴走についてだった。外国人を目の敵にして突っかかり、そのやりとりを動画に収め、ネットで配信する。世の中にはそんなろくでもない輩(やから)がいる。

「愛国」の名の下に迷惑行為を働き、金儲けをする輩

9月7日、北京の円明園という観光地で日本人観光客が現地の動画配信者に暴言や罵声を浴びせられる事件が起きた。

中国メディアによれば、観光客が中国人通訳を介して「写真を撮りたいから場所を空けてほしい」と頼んだところ、「なぜ日本人のためにどかなくてはならないのか」と激高し、日本人を追いかけ回すなどしたという。おまけに、駆け付けた警備員までもが「日本人はこの場所には入れない」と動画配信者に味方したらしい。

■「愛国ビジネス系配信者」による円明園事件の動画(日本語字幕)を見る

一部始終を配信していたこの中国人は、いわゆる「愛国ビジネス系配信者」だ。過去には航空機内で白人男性を挑発し、「差別された!」と大騒ぎする動画を上げたこともある。

「愛国」の名の下に迷惑行為を働き、その映像でアクセス数を稼いで金儲けをする輩だ。日本で言うところの「迷惑系ユーチューバー」の一種で、5月末に靖国神社の石柱にスプレーで落書きし、SNSに投稿した中国人動画配信者も同類だ。

実は、そんな愛国ビジネス系配信者の同類が日本にもいることはご存じだろうか。

この夏、有名な迷惑系ユーチューバーの男性が奈良公園を連日のようにパトロールし、彼が言うところの「鹿に暴力を振るっている」中国人観光客を見つけては、強い口調で注意し、その様子を「さらして」いた。

しかし、私が見た1つの動画では(確かに行儀は悪いが)足で鹿の脚と握手するような行為をしていただけで鹿を蹴ってなどいなかった。写真の説明には「中国人が鹿さんをサッカーボールのように蹴り上げた」とあったが、本当にそうなのか。中国人のマナーが悪いのをいいことに差別意識をあおっているのではないかと思った。

■中国人が鹿を「サッカーボールのように」蹴っているとされる動画を見る

円明園、奈良公園の双方の配信には「やりすぎだ」「間違っている」といった冷静なコメントも書かれており、それがせめてもの救いだったが、彼らの行為が中国の反日感情、日本の反中感情をさらに悪化させることを私は恐れていた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story