コラム

日本にはもっとストが必要だ...「奇麗で安全で便利な国」なだけではダメ!外国では信じられない「声を上げない文化」

2023年09月12日(火)18時50分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
西武池袋本店でのストライキ

IRENE WANG–REUTERS

<日本の大手百貨店で61年ぶりのストライキ。一方、イランでは市民が頻繁に抗議の手段としてストを行使。日本とイラン、2つの国のストライキ文化の違いを「スト大国」イラン出身の筆者が探る>

東京都豊島区の西武池袋本店でのストライキは、8月31日のたった1日で終わってしまった。大手百貨店のストは1962年以来61年ぶりだそうである。

私は日本に住んで20年以上になるが、労使交渉で「ストも辞さない構え」といったニュースを聞くことはあっても、実際にストのためバスや電車が運休で困る、という事態に出くわしたことは一度もない。ヨーロッパやアメリカを何度か訪れたことがある人なら、ストで影響を受けたこともあるだろう。飛行機や電車が運行していない、ごみが収集されないので街が汚れ放題、といった状況だ。だが影響を受ける市民にも、ストをする労働者を責める雰囲気は一切ない。自分もストをするかもしれないから、ストをする他人の権利も守られて当然、というわけだ。

イランについてはストをするイメージがないかもしれないが、実は非常にストが多い国だ。会社ごとではなく産業ごとに労働組合があって、電車やバス、トラックの運転手などが団結してストをする。

一昨年話題になったのは、日本のウーバーと同じような業態で、飲食物の宅配や配車サービスを提供する「スナップ」に従事する人たちのストだ。彼らはスナップの手数料のうち、自分たちの取り分が低く抑えられていると訴え、首都テヘランを含む複数の都市で大きなストを行った。

面白いのは、彼らはスナップの従業員ではなく、日本のウーバーと同じように業務委託契約の形であることだ。そのため労働組合を持たないのだが、SNSでつながった配達員たちが団結し、大規模なストとなった。

イランはコロナ禍によるステイホームが始まる数十年も前からフードデリバリーが非常に盛んな国で、夜中にアイスクリームひとつでもデリバリーが頼める。老人からティーンエージャーまでイラン人にとってフードデリバリーは生活の必須サービスである。

そのため、このスナップのストは、ストに慣れたイラン人にもさすがに影響が大きく、その不便さをSNSでボヤく人たちが続出した。結局ストは1週間近く続き、その結果配達員たちは報酬の増額を勝ち取ったようである。

また、広さ約110ヘクタール、大通りの長さが10キロ、7万軒の商店が立ち並び、中東最大の市場であるテヘランのバザールも一斉に営業をやめ、数日間にわたって閉店することがある。主な理由は政府や地方政府への抗議のためであり、ここ数年は対ドルでのイラン通貨リアル安によるインフレに抗議するためのストが多い。バザールがストに突入すると大きなニュースとなるため政府が為替介入などに動くようで、一時的ではあるがドルが少し安くなったりもする。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国財政相会見、刺激策の「規模」不明 市場の期待は

ビジネス

情報BOX:中国、景気底上げへ積極財政出動 財政相

ビジネス

中国9月CPI減速、PPIは半年ぶり下落率 デフレ

ワールド

イスラエル、イラン攻撃目標を軍・エネ施設に絞り込み
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思っていたが......
  • 2
    冷たすぎる受け答えに取材者も困惑...アン・ハサウェイ、批判殺到したインタビューを反省し謝罪
  • 3
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリメント「3つの神話」の噓を暴く
  • 4
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 5
    性的人身売買で逮捕のショーン・コムズ...ジャスティ…
  • 6
    アルツハイマー病治療に新たな可能性...抗がん剤投与…
  • 7
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 8
    メーガン妃とヘンリー王子は「別々に活動」?...久し…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 7
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 10
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 4
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story